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11月のFOMC-Trade off

2018年11月09日

はじめに

FRBによる今回(11月)のFOMCは、予想通りに金融政策の現状維持を決めただけでなく、経済と物価に対する評価も概ね不変に維持した。そこで本稿では、次回(12月)に向けて注目すべきリスク要因を中心に検討したい。


経済と物価の評価

今回(11月)の声明文は経済と物価の堅調さを確認する内容となっている。特に労働市場に関しては、失業率の一段の低下に言及するなど、その評価を一段進めている。主要な需要項目についても家計支出の拡大を確認している。

一方、設備投資はそれまでの早いペースでの拡大から減速していることを認めた。第3四半期の実質GDP成長率も前期に比べて減速したが、それでも+3.5%と潜在成長率を大きく上回っている。景気の先行きについても、リスクが上下にバランスした状態にあるとの見方を維持している。

物価も、総合インフレ率とコアインフレ率の双方が2%近傍で推移している点を確認し、雇用とともにdual mandateが達成された状況にあると評価している。従って、金融政策の運営も、持続的な経済活動の拡大と整合的な形で緩やかな利上げとの見方を変えていない。因みに、金融政策の現状維持という今回(11月)の決定はFOMCとして全会一致であった。


リスク要因

次回(12月)に向けて、FOMCが注視すべきリスク要因を考えてみると、まずは実体経済のモメンタムが挙げられる。 雇用や所得、純資産といった家計支出を支えるファンダメンタルズの強さには変化がない。しかし、企業活動については、声明文が示唆するように、これまでに比べて不確実な面も出ている。

貿易摩擦に関しては、先行きの不透明性を映じた企業マインドの慎重化という「心理的」な側面が強かった。しかし、米国による対中国輸入の関税引上げが第3次に拡大し、中国が報復で応じるようになれば、輸出の部分的な停滞だけでなく、生産活動の幅広いコスト上昇に繋がる。消費財は価格転嫁が可能としても、その他の産業ではグローバルな競争の中で利益の圧縮を招く懸念もある。生産活動の消費地へのシフトによる影響も含めて、設備投資がどう推移するかはポイントであろう。

物価についても、消費財への価格転嫁が上昇圧力となる。ただし、ドル相場の動向も合わせて考慮する必要があろう。つまり、これまではドル高が関税引上げの影響を相応に相殺してきたし、米国の景気拡大のモメンタムが日欧など海外をoutperformし、 FRBが利上げを継続する限り、米国に向かう資本の流れは維持される。一方、貿易摩擦の影響でなく循環的な意味でも景気拡大が成熟し、FRBの利上げに打止め感が生じれば、ドル相場のトレンドにも変化が生ずる。

もちろん、物価に対する影響がより大きく、FRBがより重視する要素は賃金である。労働市場の強さを考えると、当面は賃金上昇圧力が大きく低下することは考えにくい。さらに、賃金上昇率が加速していることは、賃金が景気に遅効性を有する可能性も示唆する。これは景気と物価のtrade offという点で、FRBにとって新たに悩ましい問題になることも考えられる。

このように、経済のファンダメンタルズは基本的に良好であるが、それ故の難しさも出てきている。

この間、インフレ率の上昇を契機とする長期金利の上昇に始まり、貿易摩擦の影響に対する不透明性によって拍車のかかった金融市場の不安定性は、足許で落ち着きを取り戻しつつある。ただし、物価を巡る不透明性を考えると、長期金利が再びvolatileになるリスクが消えた訳ではない。また、金融システムのストレス源は米国内に限られる訳でなく、欧州にも複数存在する。

前回(9月)のFOMC以降に浮上した要素としては、トランプ大統領との関係も注目される。この点に関するFRBのスタンスは明確であり、Powell議長も、金融政策を経済のファンダメンタルズに即して独立して運営することを確認している。そうしたスタンスに揺らぎが生ずるようでは、金融市場もドル相場も不安定化し、金融政策運営をより難しいものにする。

それでも、中間選挙を経て経済政策の発動余地が少なくなることもあり、トランプ大統領による利上げへの不満が高まるリスクは残るし、政策金利が中立水準に近づく中で景気と物価とtrade offが生じれば、大統領の批判に市場が相応の支持を与えることも考えられるだけに厄介である。

中間選挙後の政治情勢に関してより悩ましいのは、財政赤字の拡大に有効な歯止めがかからないリスクであろう。トランプ大統領が打ち上げた追加的な所得減税が実現するかどうかは不透明としても、インフラ投資の拡大は(長い目で見て必要であるが)民主党の支持を得て実現する可能性が高い。

財政赤字見通しの一層の悪化は、直接的にはFRBによるバランスシート調整に影響を与えるだけでなく、景気が循環的に減速する中での長期金利やドル相場に対する上昇圧力を招くことも考えられる。

このように、金融システムに関しては、各々が深刻という訳ではなくても、経済のファンダメンタルズ以上に多くのリスク要因が散在している。


FRBの政策対応

今回(11月)の声明文が確認したように、FOMCはdual mandateが達成された下で、緩やかな利上げを続ける考えを示している。それは、景気の持続的な拡大と整合的なだけでなく、金融システムの安定の維持や、政治的な介入に対する防御という意味でも合理的な選択である。

それでも、2019年の前半には政策金利も中立的な領域に達する一方、減税効果が徐々に減衰していく下で、先に見た要因によって経済のファンダメンタルズも2018年ほどに頑健ではないし、 trade offが顕在化することも考えられる。そうした中で、FRBが政策金利の「正常化」をどのようにsoft landingするか-利上げ停止のタイミングややり方-は大きな課題である。

また、利上げを停止してもバランスシートの量的縮小を機械的に継続しうるかどうかも、財政赤字の拡大が見込まれる中で新たな課題として意識されることになろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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