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米中貿易戦争の一時停戦はあるか

2018年11月06日

米中貿易戦争が一気に解消に向かうことはありえない

中間選挙を直前に控えて米トランプ大統領は、貿易交渉で米中間に歩み寄りの動きがあることを示唆し始めている。11月末からアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれるG20(主要20か国首脳会談)で、米中首脳会談が予定されている。それに向けてトランプ大統領は、貿易協議で想定される条件の草稿を作成するよう主要閣僚に指示した、と11月1日に報じられた。また同日にトランプ大統領は、「習近平国家主席と(電話会談で)長い時間とても良い話し合いができた」とのコメントをツイッターで発信している。

さらに2日には、「中国とのディールを成立させる。誰にとっても非常に公正な取引になると思う」、「(両国が)何かをしようとずっと近付いている」と発言し、米中首脳会談の場で何らかの合意がなされる可能性を匂わせている。

しかし、国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は2日に、「中国との交渉で大きな進展はない。合意は近くない」としている。トランプ大統領の発言は、直前に迫った中間選挙を意識した露骨な情報戦略の要素を多分に含んでいることは否めない。中国からの輸入品への追加関税導入は、米企業の活動や収益環境に悪影響を与えているが、トランプ政権の強硬策の奏功により、中国側が譲歩する形で貿易戦争が収束するとの期待が高まれば、中間選挙で共和党に強い追い風となる。この点から、トランプ大統領の発言は選挙戦略の一環であり、その内容についてはかなり割り引いて見る必要があるのではないか。

少なくとも、米中首脳会談で両国間の貿易問題が一気に解消に向かうことは、ほぼあり得ないことだ。米中貿易戦争の背景には、経済、先端産業、軍事力を巡る覇権争いがあり、両国ともに簡単には譲歩はできない。


中間選挙後に米中貿易戦争での楽観論は萎む可能性も

ただし、7月にトランプ大統領と欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長との間で成立した「一時停戦」のような合意が成立する可能性については、完全には否定できないところだ。その時と同様に、交渉が行われている間は新たな追加関税を発動しないことを、米国政府が約束するといったことが考えられる。さらに、来年年初から実施が予定されている、中国からの2,000億ドルの輸入品に対する関税率引き上げ(現行10%を25%とする)を当面見合わせるということも考えられる。

ただし、クドロー委員長は、米中首脳会談で一時停戦が合意されても、その後の交渉は「長く厳しいプロセスになるだろう」としている。

一方、中国側からの情報には、米中が貿易問題で何らかの合意がなされることを期待させるものはない。5日の講演で習近平国家主席は、トランプ政権の対中追加関税措置を「近隣窮乏化の慣行」と表現した上で、それは世界的停滞につながると強く批判した。

中国のテレビ局(CCTV)は、先週の米中電話会談は、米国政府側からの要請に基づくものだったことを報じている。トランプ政権側も、それを認めている。つまり、電話会談の実現は中国側の譲歩を示唆するものではない。米国政府は、米中首脳会談に向けた両国間の交渉が始まる前に、特定のテーマを示すように中国政府に働きかけたが、中国政府はそれを拒否したという。これを受けてクドロー委員長は、「満足できるような返事を中国側から得ていない。我々は待っている」としている。

また、11月末の米中首脳会談が、7月の米国EU間での一時停戦合意に繋がるとの見方に対して、クドロー委員長は「ユンケル委員長の訪米とは異なるもの」として、楽観論を牽制している。

こうした点を踏まえると、足もとで浮上してきた米中貿易戦争鎮静化への期待は、中間選挙後には、再び萎んでしまう可能性が十分にあるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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