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全世代型社会保障改革の狙いは何か

2018年10月26日

社会保障負担と受給の世代間格差は当然

10月24日召集の臨時国会で、安倍首相は所信表明演説を行い、当面の政策課題について語った。その一つが、従来から政府が提示してきた「全世代型社会保障改革」だ。首相は、「子どもから現役世代、お年寄りまで、すべての世代が安心できる社会保障制度へと、今後3年間かけて改革を進める」と説明している。さらに具体策として、生涯現役社会を目指した65歳以上への継続雇用の引き上げ、来年10月からの幼児教育無償化、再来年4月から一部高等教育の無償化を挙げている。これら以外にも、年金の受給開始年齢の選択範囲を70歳超に伸ばすこと、社会人になった後にあらためて学び直すリカレント教育の支援なども、全世代型社会保障改革の一環として、政府は挙げてきた。

しかし、社会保障制度の本来の機能を考えた際に、全世代型社会保障改革という言葉は、その意味が明確ではなく、また現在の社会保障制度が抱える本質的な問題を覆い隠してしまっている面があるのではないかと感じる。

社会保障制度は、高齢、病気、失業などによって生活の維持が困難になる場合に、国民の生活を支えるセーフティーネットの役割を果たしている。個人が、こうした事態に備えて自ら資金を積み立てる、あるいは独自に保険に加入するように、社会全体がそうした機能を担っているのが社会保障制度だ。その際に、年金制度が典型的で医療保険制度でもそうした傾向は強いが、現役世代、あるいは若年世代が多くの保険料を負担し、退職後や高年齢時にサービスを受給する傾向が強い。つまり、負担と受給のバランスが世代によって異なること自体は、社会保障制度の機能を考えれば当然のことであり、この点が問題視されることはない。


全世代型社会保障改革にバラマキの懸念も

ところで、全世代型社会保障改革と聞くと、高齢者に偏る社会保障サービスの受給を、全世代へと広げていくというイメージがある。ここには、バラマキ政策に繋がるリスクも感じられる。特に、政府が全世代型社会保障改革の一環として挙げている高等教育の無償化やリカレント教育支援は、社会保障政策とは言えないだろう。これらは、経済の生産性向上などの観点から、その実効性をしっかりと検討しつつ実施すべき、教育改革の一環と位置付けるべきではないか。

現在の社会保障制度の主な問題は、世代間でのサービスの格差よりも世代間での負担の不公平感にある。社会保障サービスが、現役世代の保険料支払いや現役世代が負担する傾向が強い税金によって賄われる一方、自身が高齢化し退職世代になった際には、十分なサービスを受けられないのではないか、という不公平感が現役世代には強くある。


消費税率の引き上げには負担の世代間公正化の要素

これへの対応としては、退職世代に支払う社会保障支出を抑制するとともに、退職世代の負担も相応に高める必要があるだろう。社会保障制度の持続性を高めるためには、そうした方向での改革を進めていくことは避けられない。全世代型社会保障改革という名称には、そうした痛みを伴う改革のイメージを少しでも良くしたい、という意図も感じられる。さらに、現役世代の当座の不満を和らげるため、全世代型社会保障改革と銘打ち、現役世代や若年層にもより恩恵が及ぶことをアピールする狙いもあるのではないか。

しかし、本当に必要な社会保障関連支出は当然ながら別としても、バラマキ的な支出を安易に増やす結果となれば、財政環境は一段と悪化し、社会保障制度の安定性、持続性も低下してしまう。

政府は、退職世代に支払う社会保障支出を抑制するとともに、退職世代の負担も相応に高めることの必要性を、逃げることなくストレートに国民に説明すべきではないか。

ところで、退職世代の相対的な負担を高める手段として長らく議論されてきたのが、幅広い世代の人が負担する消費税の税率引き上げだ。政府による消費税率引き上げの議論は、その経済への悪影響に集中してしまっている感が強い。世代間の負担不公平感への対応を進めつつ、財政の健全化や社会保障制度の持続性を高めるために必要な措置であるという、消費税率引き上げの本来の重要性を、政府は改めて国民に説明し、それを思い起こさせることが必要だ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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