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米中新冷戦時代の始まりか

2018年10月22日

ペンス副大統領の痛烈な中国批判

米中関係を考えるうえでおそらく歴史的な出来事となったのが、マイク・ペンス副大統領が2018年10月4日に米国の保守系シンクタンクのハドソン研究所で行った演説だ(注1)。同氏は、極めて激しい口調で中国政府批判を展開したが、その範囲は、政治、経済、安全保障、人権など広範囲に及んでいる。また同氏は「米国は新たな対中方針を採用した」と述べ、米国政府が中国政府と対立姿勢を強めることをより明確にした。これは、1979年の米中国交樹立にさかのぼる「建設的関与」戦略から、米国が明確な方向転換を図ったことを意味するものだろう。これを受け、かつての米ソ間で繰り広げられた「冷戦」になぞらえて、「米中新冷戦」の始まりと表現する向きもある。

講演の中で示された対中批判を概観すると、第1に、中国は経済力を乱用して、中国の経済発展を助けてきた米企業をいじめている。中国を世界トップの製造大国に押し上げることを目指す中国政府の産業振興策「中国製造(メード・イン・チャイナ)2025」を実現するため、中国は米国企業から知的財産を盗んでいる。第2に、一帯一路構想の下、中国は影響力拡大を狙ってアジアやアフリカ、欧州、南米の国々に巨額融資を行い、相手国を債務不履行に陥らせる「借金漬け外交"debt diplomacy"」を展開している。第3に、近隣諸国を脅かし、南シナ海を軍事拠点化している。第4に、チベット族やウイグル族を弾圧し、また宗教信者を迫害している。第5に、今年の米国中間選挙や2020年の大統領選挙に介入し、トランプ大統領の交代を画策している。

ペンス副大統領の講演とほぼ同じタイミングで、米国政府の新たな対中政策が次々と明らかになった。中国が実効支配する南シナ海の海域周辺において、米軍艦のパトロールを強化するという米海軍の計画が報道された。米自由貿易協定(NAFTA)を改定し新たに合意された「米国・メキシコ・カナダ協定」で、両国と中国が貿易協定を結ぶのを阻止する条項が盛り込まれていることが明らかになった。米政府は、他の貿易協定にも同様の条項を盛り込むとの意向を持っている。また、中国がアフリカ・アジアで進める一帯一路構想に対抗して、600億ドルの開発融資を行う建設法案を連邦議会は可決した。米財務省は、中国対米投資の安全保障上の審査を強化する新規則を発表した。司法省は、ベルギーで逮捕された中国の情報工作員について、米企業からの秘密の窃取に関わった容疑で訴追するため身柄を米国に移したと発表した。エネルギー省は、原子力技術の対中輸出規制を強化すると発表した。

さらに、米政権は米国の対外支援に関する審査報告書を11月に公表する予定だ。中国政府のインフラ整備プロジェクト、一帯一路構想を標的にしているという。


貿易戦争から体制間の争いへ

ペンス副大統領の発言を契機に、米中間での対立は、貿易問題から経済、政治、安全保障へと一気に範囲を拡大したと見ることができる。しかし、両国間での貿易戦争の本質は、そもそも政治、経済、軍事を巡る両国の覇権争いであったと言える。米国政府は、中国経済の発展、「中国製造2025」のもとでの先端産業の躍進が、米国の軍事的な優位をいずれ脅かすことを強く警戒している。米国政府は、対中貿易問題の底流にある本来の思惑、狙いを、もはや隠さなくなったのだと言えるだろう。

米中新冷戦がかつての対ソ冷戦と決定的に異なるのは、米中両国の経済が極めて密接に関わっていることだろう。そのもとで、米国が対中制裁関税の導入を拡大させるなどの強硬姿勢をとれば、中国からの消費財、中間財の輸入品価格の上昇が、それを購入する米国消費者、それを用いて生産活動を行う米企業に大きな打撃となる。貿易面で中国を攻撃すると米国自身に跳ね返ってくるという「ブーメラン効果」が、米国政府の対応を難しくしている面がある。

しかし、対中政策では、このような経済的側面よりも安全保障面を優先し、中国の経済、先端産業の発展を許せば、それは米国の軍事的優位を揺るがすということを声高に叫ぶグループが、トランプ政権内でより力を増しているように見える。

例えば、通商担当のピーター・ナバロ大統領補佐官は、対中強硬派として以前から知られている。ナバロ氏は2018年夏に、米国のテクノロジー業界を脅かす中国の経済侵略についての報告書をまとめた(「The Hundred-year Marathon: China’s Secret Strategy to Replace America As the Global Superpower」)。

軍出身のジョン・ケリー大統領首席補佐官も、対中タカ派の代表格だ。また、国家安全保障問題担当の大統領補佐官に新たに就任したジョン・ボルトン氏も、以前から中国への強硬姿勢を主張している人物だ。

ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが2018年4月に行った合同世論調査では、トランプ氏を支持する共和党支持者のうち、中国を友好国と回答した人はわずか4%で、敵と答えた人は86%に上った。トランプ政権の対中政策の変更は、政権内での対中強硬派の影響力が強まったことに加えて、米国民に広がる中国批判ムードを受けて、中間選挙対策として打ち出されている側面がある。

しかし、今回のペンス副大統領の講演で示された米政府の対中戦略の修正を、一時的な選挙対策と理解するのは全くの誤りだろう。講演では、中国政府の建国にまで遡り、一党独裁のもとでの外交政策、経済政策、安全保障政策を強く批判している。これは、米国政府がまさに中国の政治・経済体制自体を変えることを要求しているに等しいものと言えるのではないか。

貿易不均衡の是正については、中国政府は米国側の要求をある程度受け入れる用意があるだろうが、米国からの要求で国のアイデンティティに関わる政治体制を修正することはあり得ない。このように、米中間での対立は、貿易問題から一気に体制間の争いへと発展してきた感がある。両国の対立は、数年で収束するようなものでは決してないだろう。


(注1)"Vice President Mike Pence's Remarks on the Administration's Policy Towards China"

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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