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米国財政悪化と悪い金利上昇

2018年10月17日

急速に拡大する米国財政赤字

米国の財政環境が一段と悪化し、金融市場や経済活動に悪影響を及ぼす可能性が懸念される状況だ。2018年度(2017年10月~2018年9月)の財政収支は、7,790億ドルと、2012年度以来の赤字幅を記録した。昨年年末に実施された10年間で1.5兆ドルとなる過去最大規模の減税措置や、インフラ投資、社会保障費、国防関連など歳出の拡大といったトランプ政権の拡張的な財政政策が、急速な赤字拡大の背景にある。赤字額は前年度比17%増加となり、赤字額のGDP比率は3.9%と前年度から0.4%ポイント上昇した。

議会予算局(CBO)の見通しによれば、2019年度の財政赤字額は9,730億ドル、2020年度には1兆ドルを超える。さらに、2022年度頃には赤字額のGDP比率は5%に達する。第2次世界大戦後、米国で財政赤字額のGDP比が5%を超えた局面は2回しかない。しかも、それはいずれも景気後退直後で、税収が一時的に大きく落ち込んでいた時期だ。今回のように、景気情勢が良好ななかで財政赤字が急速に拡大し、財政赤字額のGDP比が5%を超える見通しであるのは異例のことだ。これは、トランプ政権が、如何に大規模な財政拡張策をとっているかを表しているだろう。

議会予算局の見通しとは異なり、トランプ政権は、大型減税やインフラ投資の拡大が経済の成長率を持続的に高め、それが税収増加を生じさせるため、財政環境の悪化は一時的と説明している。しかしこれは、高成長を通じていずれ税収増加に繋がるとの説明で大型減税を実施し、最終的に財政赤字を拡大させてしまったレーガン政権第1期と重なる。


「双子の赤字」問題への対応が優先課題

足もとで、米国の長期金利が上昇傾向を見せている。インフレ期待の上昇を背景に名目長期金利が上昇する場合には、実質金利は変化しないため、理論的には経済に悪影響を与えない。しかし、インフレ期待が変わらない中で名目長期金利が上昇する場合には、経済に悪影響を与えることになる。そのきっかけとしては、中央銀行の金融引き締め見通しが上方修正される(実質短期金利見通しの変化)ことによるものか、それ以外の要因によるものだ。後者はタームプレミアムと呼ばれるが、その代表的な要因の一つが債券の需給悪化だ。財政赤字が拡大し、米国国債の発行が拡大する、あるいはそうした見通しが強まれば、需給悪化を映して実質長期金利は上昇し、景気抑制効果を生じさせる。

トランプ大統領は、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め策を批判しているが、まず必要なのは、財政と貿易の「双子の赤字」という深刻な国内構造問題への政府の対応だ。トランプ大統領は、米国貿易赤字の拡大は、貿易相手国の不公正な貿易慣行や不当な通貨切り下げによってもたらされているとしている。米財務長官が日本との貿易協定に円安阻止を狙って為替条項を盛り込むことに言及したのも、トランプ政権のこうした認識を反映していよう。

しかし、自国が抱える構造問題を放置して、貿易相手国への攻撃を続ければ、双子の赤字問題がさらに深刻化していき、財政悪化とドルの信認低下の双方を反映して悪い長期金利上昇をさらに促すだろう。その結果、住宅、自動車など長期金利に敏感なセクターを中心に、景気抑制効果が高まる。さらに、先週見られたような株安、債券安、ドル安といった金融市場の動揺を、何度も繰り返すことにつながるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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