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IMFがアベノミックスの修正を提言

2018年10月10日

アベノミックスに3つの課題

安倍首相が自民党総裁の3選を決め、第4次安倍改造内閣が発足したタイミングにちょうど合わせたかのように、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が先週訪日し、日本経済の見通しや経済政策の評価について説明しメディアからの質問に応じた。それに先立ち、IMF4条協議(IMF協定の第4条に基づいてIMFが通常年1回実施している、各加盟国の経済政策に関する包括的な協議)に基づいてIMF代表団声明が公表されており、ラガルド専務理事の記者会見はこれを踏まえて行われたものだ。これらの中では、アベノミックスをより実効性が高く、信頼性が高い形へと修正する旨のIMFの提言がなされている。

IMFはその時点で、2018年の日本の成長率を+1.1%、2019年の成長率を+0.9%と予想していた。潜在成長率を上回るペースであるものの、昨年よりも下振れリスクが高まっていると指摘された。一方、ラガルド専務理事は、これらの数字が、潜在成長率を大幅に上回っていると説明している。日本銀行は、日本の潜在成長率を最新の推計で+0.8%程度と推計しているが、IMFの推計する潜在成長率はこれよりもかなり低いのだろう。この低い潜在成長率を高めることこそが、日本の経済政策の大きな課題の一つとIMFは考えている。

声明では、経済・物価環境を一層改善させ、潜在成長率を高め、政府債務を持続可能な状態にするには、アベノミックスの戦略をさらに力強いものへと変えていくことが必要、としている。具体的には、①中期的な財政枠組みの強化、②労働市場などでの構造改革進展、企業ガバナンスの強化、③明確なフォワードガイダンスを伴う金融政策と金融システムの安定に向けた政策強化、の3点が挙げられた。これは、それぞれ「3本の矢」に対応しており、その強化、修正が提案されているに他ならない。


アベノミックスに苦言

6月に政府が示した「骨太の方針」は、中長期的な観点から財政の持続性を高める取り組みは限定的だったと、IMFは苦言を呈している。政府は、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化する目標時期を2020年度から2025年度へと先送りしたが、この見通しは引き続きかなり楽観的な経済見通しに基づいているとIMFは批判している。また、社会保障支出の増加を抑制する措置について、長期的な計画を欠いているとしている。

さらに、2019年に消費税率が8%から10%に引き上げられることについて、ラガルド専務理事は、さらに漸次的な小幅な引き上げがあるべき、と明言している。税率が10%まで引き上げられた後の消費税について、何ら展望を示していない日本政府に対する批判とも読めるだろう。


構造改革は進んでいない

ラガルド専務理事は、アベノミックスをより実効性の高い戦略へと変えることができるかどうかの鍵を握るのは、構造改革の進展であり、特に労働市場の改革が最重要課題としている。労働市場では、女性や高齢者の労働参加率が高まるなど、労働力の供給増という点では一定の進展が見られる。しかし、正規労働に就く意欲を損なうような税制・社会保障上の障壁を取り除く取り組みは、この1年で進展していないと指摘している。

このように、IMFは、日本経済が抱える深刻な構造問題を指摘したうえで、それに対応する観点から、アベノミックスをもう一度見直すことを提言している。しかし、IMFに指摘されるまでもなく、潜在成長率の低迷に示される経済の潜在力低下への対応は、第4次安倍改造内閣にとって最重要課題だ。それへの対応が、財政環境の持続性を高め、また、金融機関の収益性改善を通じて、金融システムの安定にも寄与するだろう。

なぜ今まで実施されてきた構造改革が効果を挙げていないのか、どこに問題があるかを総括することこそが、新生アベノミックスの起点になるべきだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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