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米IT企業の規制議論に欠かせない利便性評価

2018年09月28日

平行線が続く米議会公聴会での議論

9月26日に、アマゾン・ドット・コムやアルファベット傘下グーグルなどの米大手テクノロジー企業幹部が出席した米上院公聴会が開かれた。利用者のプライバシー保護などの観点に基づく法強化のあり方などが、大きな焦点となった。議員らからは、データの不正利用によってインターネットの利用に対する国民の信用が低下している点や、法規制への支持が、党派を問わず議会の中で広がっていることなどが指摘された。

他方、参加した企業からは、利用者に有用な商品を紹介するなどの目的から、個人情報の管理、利用を、責任を持って行っている、との説明がなされた。一方で、過度な規制は利用者に提供するサービスを制限し、利用者の利便性を低下させてしまうとの訴えがなされた。

グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、9月28日にも共和党幹部議員らとの非公開会合に出席し、また年内に議会の公聴会にも出席する見通しだ。ここでは、中国との協業や市場での影響力、さらに反保守に偏向しているとされる検索結果が質疑の中心となる見込みだ。

企業と議会の主張は平行線を辿ったまま、なお終わりの見えない議論が繰り返されている。


議会で高まるグーグルの問題への関心

この公聴会とは別に、グーグルの対応を巡って、議会で規制強化の議論が勢いづいている。グーグルは、ターゲット広告のために無料電子メールサービス「Gメール」の利用者のアカウント情報を読み取ることを昨年打ち切った。しかし、その後も、社外のアプリケーション開発者には利用者のアカウント情報を読み取り、それを他者と共有することを認めている点が明らかとなった。ユーザーの電子メールに含まれている情報の乱用とプライバシーに懸念を持つ連邦議員からの質問に対して、グーグルが書簡で回答したことでそれは明らかになった。同社は、プライバシー規定で、データ利用に関する情報をユーザーに適切に開示しているとグーグルが判断する限り、アプリ開発者はおおむね自由に、そうした情報を第三者と共有できると説明した。

社外のアプリ開発者は、Gメールやその他の電子メールサービスが提供するソフトウエアを利用して、利用者が購入した商品、その旅行先、頻繁にコンタクトする友人や同僚といった情報を入手することが可能だ。また、ソフトのアルゴリズムを改善するために、アプリ開発企業の従業員がユーザーの電子メールの内容を読む場合もあるという。


自主規制では不十分か

フェイスブックとグーグルなど米大手テクノロジー企業は、9月26日に欧州連合(EU)内におけるインターネット上での偽情報(フェイクニュース)拡散に対策を講じる内容の自主規制で合意した。

具体的には、偽ニュースの配信を目的とする自動投稿プログラム「ボット」の悪用を追跡すること、疑わしい投稿を利用者が従来よりも報告しやすく工夫すること、サイト上で拡散される広告の内容をより綿密に監視すること、などだ。

企業は、厳しい規制の導入を回避するために、このように自主規制に乗り出しているが、欧州委員会内では、その実効性に懐疑的な意見もあり、今回合意された自主規制が十分な成果を上げなければ、EUは規制を行うと改めて警告している。

企業による自主規制は十分機能しないことから、法規制の強化が必要だとする報告書が、米国のシンクタンクからも出されている。ハーバード大学のショレンスタイン報道・政治・公共政策センターが9月24日に公表した報告書では、自主規制がなされているもとでも、デジタル広告プラットフォーム企業は利用者のプライバシーを侵害し続けており、また、それが虚偽情報による宣伝キャンペーンの温床にもなっていると指摘している。その上で、最近、業界が反対する厳しいプライバシー法案をカリフォルニア州が可決したが、州単位ではなく連邦単位で厳しい法規制の導入が必要だと主張している。

また、ユーザーデータ保護のためには、プライバシー法の強化だけでなく、企業が収集できるデータ量の制限が必要だとしている。企業は収集した情報をどのように広告サービスに利用しているかについて、より詳しく情報を開示する必要があるともしている。さらに、こうした企業が企業合併・買収(M&A)を通じて、競合他社を取り込み、データ取得で独占的地位を維持していることから、合併審査でもデータの独占度合いを判断指標にすべき、との興味深い見解も示している。


最後は利用者の利便性の判断か

米大手テクノロジー企業は、法規制の強化を回避する観点からも、自主規制に前向きに取り組む姿勢を見せている。しかしながら、米議会、政府はそれでは十分な対応がなされないのではないかとの懐疑的な見方を崩していない。

他方、企業は、過度な法規制は利用者の利便性を損ねてしまうとの主張も強めている。利用者の利便性を盾にして、規制強化の動きに抵抗しようとする戦略である。確かに、利用者が個人情報を提供する代わりに無料のサービスを受けていることに、一定程度満足していることは疑いがない。

また、買収などを通じた企業規模の拡大や独占の強化も、利用者の利便性を高めている面があることも確かだろう。アマゾンを例に挙げれば、ホールフーズがアマゾンに買収されて以降、消費者は一部の加工肉をより安価に手に入れられるようになった。また、ウォルマートは、アマゾンの台頭を受けて、顧客サービスの改善を進めた。またアマゾンへの対抗から、小売店での販売価格やクラウドのサービス料金も下がるなど、利用者にとっては好ましい動きが生じていることは確かだ。

今までの米議会と企業との間の議論で欠けていたのは、利用者が個人情報を提供することから生じるプライバシー問題などのリスクと、サービスから得られる利便性とのバランスを、どう判断しているかという点ではないか。その計測は簡単ではないとはいえ、何らかの客観的なデータなどに基づいて議論がなされない限り、米議会と企業との間の議論はかみ合わないまま、いたずらに過度な規制が導入され、利用者の利便性が損なわれる事態ともなりかねないのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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