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FRBのパウエル議長の記者会見-Pretty good condition

2018年09月27日

はじめに

今回(9月)のFOMCは予想通りに追加利上げを行ったほか、景気の力強い拡大を踏まえて、今年(2018年)の経済成長率に関する見通しを上方修正した。しかし、市場の焦点は既に来年以降の政策運営に移っており、今回の記者会見でも様々な角度からこの点を探る質問が多かった。いつものように内容を検討したい。


景気と物価の見通し

まず、今回(9月)のFOMCで改訂された景気と物価の見通しを確認したい。実質GDP成長率の見通しは、2018~2020年にかけて+3.1%→+2.5%→+2.0%となり、前回(6月)に比べて、2018年が0.3%ポイント、2019年が0.1%ポイント、各々上方修正され、 2020年は不変であった。また、今回新たに公表された2021年は1.8%とされた。

2018年のやや大きめの上方修正は、パウエル議長が記者会見の冒頭で説明したように、米国経済の足許の強さを反映したものである。実際、声明文の第1パラグラフに示された経済活動の力強い拡大という評価は、前回のFOMC(7月)から全く変わっていない。一方で、来年以降は2021年に向かって経済成長率が減速するという見方も、トランプ政権の減税効果が一時的に止まるとの含意を含めて、従来から変化していない。

一方、PCEコアインフレ率の見通しは、2018~2020年にかけて+2.0%→+2.1%→+2.1%とされ、前回(6月)と不変であった。さらに、今回新たに公表された2021年も+2.1%となり、当面の間はインフレ率が2%近傍で推移するとの見方が示された。

FOMCの場合も、日銀のMPMと同じく、各メンバーは金融政策が最適に運営されることを前提とした見通しを提示する。従って、インフレ率の2%目標近傍での推移は、後でみる利上げの継続の下で実現すると予想されている訳である。この点は先に見た経済成長率の見通しも同様であり、景気の循環的な減速に加えて、利上げの効果が徐々に顕在化することも含意されている。

こうした見通しを受けて、今回の記者会見では数名の記者がインフレの方を取り上げ、失業率が足許で低位であるだけでなく、 FOMCメンバーが考える「長期」の水準(今回も4.5%で据え置き)を大きく下回って推移することに伴うインフレ加速のリスクを問う質問が示された。

これに対しパウエル議長は、フィリップスカーブのフラット化やインフレ期待の安定といった要素を説明した一方、労働参加率が長期の低下トレンドに拘わらず足許で横ばいになっていることは、歓迎すべき動きであると指摘した。その上でパウエル議長は、こうした状況が今後も続くかどうかは不透明であるとし、短期間で状況が変わりうることも付言した。


金融システムの状況

金融システムに関しては、世界金融危機から10年という節目を捉えて、その教訓や今後のリスクといった中長期の論点を取り上げる記者も見られたが、興味深いことに、数名の記者は、金融政策の運営と関連付けながら、金融システムの現状評価やリスクを取り上げた。

すなわち、緩やかな利上げの下で緩和的な金融環境が維持されている結果、金融システムが不安定化するリスクが高まっていないかという懸念と、依然として低位とはいえ政策金利が上昇してきたことで、家計の資金調達に伴う負担も高まっているのではないかという、相互に異なる視点からの懸念である。

前者に対してパウエル議長は、金融機関の頑健性が大きく改善している点を確認した上で、金融システム全体としてみたリスクは小さい(modest)との評価を示した。後者に関しても、家計のバランスシートが総じて健全であるほか、金利が上昇したと言っても依然として低水準であることを確認した。その上でパウエル議長は、双方の問題に関して、今後も事態の推移を慎重に監視するとの考えを示した。

以前の本コラムでも触れたように、前回(7月)FOMCの議事要旨をみても、政策金利を引上げ続けていることの影響は、実体経済のみならず金融面でも殆ど見出すことができない。これは、FOMCによる緩やかな利上げという政策対応が成功している証左である一方、利上げに伴う金融面での調整を先送りしているに過ぎない可能性もある。


政策金利の運営

今回(9月)の声明文から、「利上げ後も緩和的」とする文章が削除されたことは事前予想通りであったし、パウエル議長もこれに伴う政策スタンスの変更はないと明言している以上、深入りする必要はないであろう。

より重要な点はFOMCが利上げをどこまで進めるかである。この点に関して、今回(9月)のFOMCメンバーによる予想(median)は、次回(12月)に25bp利上げした後、2019年は約70bp、2020年に約30bp利上げし、新たに公表された2021年は現状維持との予想を示している。具体的な"dot"の分布では2020年に若干の変化がみられるが、全体としては、パウエル議長が説明したように前回(6月)と変わっていない。

こうした見通しは、FOMCが2019年後半まで緩やかな利上げを継続し、2020年のどこかで利上げを終了することを含意している。また、2020年末の予想は3.4%と、FOMCが考える中立金利である3%(前回(6月)の2.9%から上方修正)より高いが、2020年の"dot"に大きなばらつきがあるだけにmedianのみに着目すべきでないとすれば、両者は大差ないとも言える。つまり、FOMCは中立圏までの利上げで打ち止めにする考えにある。

こうした方針自体は市場とも相応に共有されているように見えるが、特に今回(9月)のFOMC前には、ニューヨーク連銀の総裁に就任したウィリアム氏自身が関わった中立金利の推計値が上昇したり、地区連銀総裁を中心に中立金利の回復を示唆する発言が目立っただけに、市場では、FOMCが中立金利の予想を相応に上方修正した上で、利上げの最高到達点に関する予想も同時に引き上げるとの見方もあった訳である。

パウエル議長が極めて好調(pretty good)と評したように、FOMCは足許の景気には強い自信を持っているが、先行きの政策運営に関しては、このようにむしろ慎重であったとも言える。同時に、中立金利のような概念は重要だが、その推計に関しては「知らないこと」も多いというパウエル議長がジャクソンホールで示した識見が反映された判断とみることもできる。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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注目ワード : インフレ目標

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