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異次元緩和正常化に関する安倍首相の発言の真意

2018年09月14日

政府は日本銀行に正常化のフリーハンドを与えるか

9月14日に日本記者クラブで行われた自民党総裁選に向けての公開討論会で、安倍首相は、日本銀行の異次元緩和について、「ずっとやっていいとは全く思っていない」、「いつ、この緩和についてどう判断するかはマクロ政策として黒田さんが判断する」、「黒田総裁に任せている」などと発言したという。今まで安倍首相がこうした主旨の発言をしたことはないように思う。この発言は、将来の日本銀行の金融政策正常化策の実施について、政府側がいわばフリーハンドを与えるもの、あるいはそうした意思の表れとの解釈もできるのではないか。

異次元緩和については、2%の物価安定目標達成のために実施しているというのが日本銀行の公式見解だ。これに従えば、物価目標の達成に関する前提なしに、正常化を議論するのはおかしい。

この点を覆し、物価目標の達成と切り離して、安倍首相が日本銀行の判断で異次元緩和の正常化を実施することを容認したのが今回の発言の主旨のようにも受け止められる。その背景には、①2%の物価安定目標の達成は実際には難しい、②異次元緩和を長期化すれば副作用が高まる、との判断が安倍首相、あるいは政府内にあるのではないか。


政府はもはや2%の物価安定目標達成を重視していない

政府はもはや2%の物価安定目標達成を重視していないことは明らかだ。それは、第1に、5年間のうちに2%の物価安定目標という最も重要な数値目標の達成に失敗した黒田総裁を、政府が4月に再任したことに表れていよう。第2に、携帯通信費は4割下げることができるとした、先般の菅官房長官の発言にもそれは表れている。仮に携帯通信費が4割下がれば、消費者物価は1%弱低下し、最新の7月で+0.8%の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率は、マイナスに沈んでしまう。政府はもはや、日本銀行の2%の物価安定目標達成を助けようという意思はないのだろう。

仮に政府が、2%の物価安定目標達成とは切り離した形で異次元緩和の正常化を容認しているとしても、正常化が2019年10月に実施予定の消費税率引き上げと重なるタイミングで実施されることは、受け入れがたいのではないか。政府は、消費税率引き上げによる国内景気の悪化を非常に恐れているためである。


消費税率引き上げの経済への悪影響が大きくなければ正常化へ

他方、7月末に日本銀行が実施した政策調整で、長短金利を低水準に維持する「政策金利のフォワードガイダンス」について、消費税率引き上げの影響などに配慮する、との説明が付された。これは、消費税率引き上げ前には、長短政策金利(それぞれ0%程度、-0.1%)を引き上げることはしない、という政府に対するメッセージとも読める。他方、日本銀行は消費税率引き上げの経済への悪影響は小さいと判断しており、実際、その通りに悪影響が小さいことが確認できれば、物価動向いかんに関わらず、長短政策金利の引き上げといった正常化を正式な形で実施する考えである、という意思表示とも読めた。

そうした日本銀行の政策姿勢を、政府も容認するのであれば、最短では2020年春頃に、長短政策金利(目標)の引き上げといった「正式な正常化策」が実施される可能性があるのではないか。もちろん実施のタイミングは、経済、金融市場の環境にも大きく左右されるため、経済情勢の悪化や円高進行などがあれば、実施のタイミングは後ずれしよう。

一方で、長期国債買入れ増加ペースの削減(ステルス・テーパリング)、国債利回りのさらなる上昇誘導(ステルス・利上げ)といった、既に実施されている「事実上の正常化策」については、今後も粛々と進められていくことになるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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