1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 木内登英のGlobal Economy & Policy I…
  5. スルガ銀行問題と金融政策・行政の責任

スルガ銀行問題と金融政策・行政の責任

2018年09月07日

スルガ銀行の第三者委員会が調査報告書を公表

9月7日に、スルガ銀行の第三者委員会(委員長=中村直人弁護士)が、不適切融資に関する調査報告書を公表した。この委員会は、一連の不適切融資問題の発覚を受けて、スルガ銀行が5月に発足させたものだ。スルガ銀行は、女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」や、それ以外の投資用不動産で、不適切な融資を行っていた。借り入れ希望者の年収や金融資産を水増ししたり、実際の取引価格と異なる契約書が提出されたりしていることを行員は知りながら融資をしていたとされる。

またそれ以外にも、スルガ銀行が創業家の関連企業に500億円弱を融資していることも明らかになった。関連企業の実態がスルガ銀行の子会社にあたる場合には、銀行が子会社などに融資する際に、同じ信用力を持つと評価される他の一般企業より有利な条件にすることを禁じる、銀行法などの規定、いわゆる「アームズ・レングス・ルール」に反する可能性もある。さらに9月6日になって、スルガ銀行がゆうちょ銀行と提携して実行した不動産融資で、審査書類の改ざんなどの不正をしていた疑いがあることも明らかとなった。

今回の調査報告書では、融資の審査書類などに多くの改ざん、偽造がなされ、それを多くの行員が認識し、また積極的に関与していたこと、その背景にコンプラインアンスの意識が欠如していたこと、などが挙げられている。また、営業部門が審査部門に強いプレッシャーを与えていたことも明らかにされている。今回の調査報告書の公表を受けて、スルガ銀行は社長と創業者の会長、専務の辞任を発表した。スルガ銀行は1895年の創業以降初めて、経営陣から創業家出身者がいなくなる。また、今回の調査報告書も踏まえて、金融庁は行政処分に向けた最終判断をする。


活路が塞がれてきた地域金融機関

スルガ銀行あるいはそれ以外の地域金融機関で発覚している不適切行為、不正行為は、決して正当化されることはない。ただし、それらが生じた背景には、銀行に共通する厳しい経営環境があったことは否定できないところだ。

厳しい経営環境の下でも一定の収益を上げるために銀行が取り組んできた、いわば活路を見出すための試みは、ことごとく阻まれてきたとも言えるだろう。その取り組みとは、アパート・マンションローン、カードローン、外債投資、経営統合などだ。地方を中心に拡大したアパート・マンションローンについては、資産家の節税対策とも関連しており、金融庁が数年前から慎重な融資を呼び掛けている。銀行にとって収益性の高いカードローンは、多重債務者増加を懸念する世論に配慮して、銀行は一定の自粛を強いられた。国内の国債利回りが低下するなか、銀行はより高い利回りを求めて米国国債など外債投資を拡大させたが、海外国債利回り上昇を受けて大きな損失を負ってしまった。これを受けて金融庁は、証券投資のリスク管理をより強化するように、地域金融機関に働きかけるようになった。

そして、地域金融機関の構造改革手段の一つと金融庁が位置付ける合併・統合は相応に進んだものの、長崎県でのFFG(ふくおかフィナンシャルグループ)と十八銀行との統合については、統合後の県内融資シェアの高さを理由に、公正取引委員会がそれを承認しない期間が長く続いた。先般、統合は承認されたが、その過程で他行に貸出債権を移す「債権譲渡」という手法がとられたことから、同一県内など近隣同士の地域金融機関の合併については、ハードルが上がってしまった感がある。

このように、収益改善のために銀行が行ってきた取り組みが、いずれも障害に直面し、銀行は活路を見出すことができない状況にある。


金融政策による銀行の収益環境の悪化

銀行に厳しい収益環境をもたらしている低金利環境は、潜在成長率の低下など、以前と比べて日本経済の潜在力が低下してしまったことに起因する部分は多い。この点から、新たな低金利環境に、銀行ビジネスが十分に対応できていないという側面はあるだろう。

しかし、近年の日本銀行による異例の積極金融緩和策が、経済の実力に照らした妥当値を大幅に下回る水準まで金利水準を押し下げ、銀行の収益環境を損ねてしまっていることもまた確かだ。例えば、経済環境に照らした10年国債利回りの妥当値は1%強程度ではないかと思われが、実際の水準はそれよりも1%程度も低い。

この政策がいずれは効果を発揮し、経済の活性化、インフレ率の上昇につながれば、低金利も修正され銀行の収益環境は改善するが、それは期待できない。既に金融緩和の追加的な効果は無くなり、銀行の収益を悪化させ金融仲介機能を損ねるといった副作用のみが累積を続けている、と筆者は考えている。

日本銀行が7月末に公表した政策修正は、イールドカーブのスティープ化を主に意図した措置と筆者は考えている。異例の金融緩和策の継続に伴う上記の副作用の軽減を狙ったもので、事実上の正常化策だ。しかし、この程度の措置では、金融機関の収益見通しを改善させるには、なお力不足である。


金融庁による融資拡大要請の問題

多くの地域金融機関が、不正ではないとしても不動産融資などで過度なリスクをとっている背景には、金融庁による融資拡大要請も関係しているのではないか。地域密着型のビジネスモデルに根差して、企業に対する目利きを効かせた融資の拡大を、金融庁は地域金融機関に求めてきたが、そうした融資を拡大できる余地もかなり限界に達しているのではないか。そうした中で無理に融資を拡大しようとすれば、低金利戦略で他行の融資を奪っていく他はない。しかし、それによって貸出金利が一段と下がれば、融資が増加する中でも利鞘縮小によって銀行の収益は逆に悪化してしまう。実際、こうした貸出金利引き下げの過当競争が、地域金融機関の収益悪化に拍車をかけているのが現状だ。

この点を踏まえれば、金融庁が地域金融機関に融資拡大の要請を安易に強めることには問題がある。おそらくその背景には、政府の政策、「地方創生」と平仄を合わせる意図があったのではないか。しかし、地域経済活性化を優先するなか地域金融機関の収益が一段と悪化し、いずれ金融システムの不安定化に繋がってしまうようでは、金融庁は本来の職責を果たしていないことになるだろう。

貸出金利引き下げの過当競争のもとで、信用リスクに見合わない低金利での貸出が、既にかなり拡大してしまった可能性がある。また、金融庁は、適切な不良債権管理の観点から銀行による債務者区分をしっかりとチェックしなくなっている。そのため、景気情勢がひとたび悪化すれば、予想以上に地域金融機関の不良債権は拡大し、金融システムを揺るがす事態にまで発展する可能性はあるだろう。

1990年代終わりから2000年代初頭にかけて、金融不安が収束する過程で、金融システムの安定維持に関する金融行政の優先度が低下してしまった。今年7月の金融庁の組織改正も、そうした考え方が背景にある。それが行き過ぎ、銀行検査が簡素化され過ぎたことが、金融庁が今回、スルガ銀行の不適切融資を見抜けなかったことに繋がった面があったのではないか。この点から、スルガ銀行問題では、金融庁の責任も問われるべきだろう。


当局は金融システムの安定により目配りを

日本銀行には「物価の安定」と「信用秩序の維持(金融システムの安定)」という2つの使命(マンデート)がある。本来は、双方の使命をバランスよく達成することが求められる。しかし、近年は、政府からの強い要請もあり、デフレ克服を優先するとの方針のもと、「物価の安定」という使命に過度に偏った金融政策運営がなされてきた。その結果、すでに見たように銀行の収益環境は大幅に悪化し、将来的には金融システムの不安定化に繋がるリスクを高めてしまっている。「信用秩序の維持(金融システムの安定)」という使命が軽視されてきたのである。

こうしたバランスを欠いた日本銀行の金融政策と、同じく金融システムの安定維持の優先順位を低下させた金融庁の金融行政とが重なることで、現在の地域金融機関の厳しい経営環境が作られている面がある。そしてそれは、いずれ銀行経営の悪化と金融システムの不安定化に繋がるリスクも秘めていよう。両当局には、今回のスルガ銀行の不適切融資問題を、そうした金融政策、金融行政を大きく転換させるきっかけにして欲しい。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

この執筆者の他の記事

木内登英の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています