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四半期開示制度をめぐるトランプ大統領のツイッター発言

2018年08月28日

四半期開示撤廃に賛同したトランプ大統領

2018年8月17日、米国のドナルド・トランプ大統領は、自らのツイッターに次のような内容の投稿を行った。「何人かの世界のトップ・ビジネス・リーダー達と話した際、私は米国におけるビジネスと雇用を更に良くするために必要なことは何だろうかと尋ねた。ある人が『四半期開示を止めて6か月ごとの制度に変えることです』と言った。それは柔軟性を高め、費用の節約にもなる。私は証券取引委員会(SEC)に対して検討を指示した。」

その後、トランプ大統領に対して四半期開示制度の撤廃を進言したビジネス・リーダーとは、2018年10月に退任予定となっている大手飲料メーカーペプシコのインドラ・ヌーイCEOだと確認された。ヌーイ女史は、自らの提言の狙いについて、企業がもっと長期的な視点を持てるようにするとともに、欧州の情報開示制度との調和を図るべきだという考え方に基づくと説明している。

一方、大統領による指示を受ける形となったSECのジェイ・クレイトン委員長も声明を発表し、「大統領は米国企業の重要な課題を浮き彫りにした」と大統領の発言内容を評価する姿勢を示すとともに、SEC企業金融局は公開企業の情報開示制度については開示の頻度という点を含め継続的に検討を行っていると指摘した。

四半期開示制度を見直した欧州

四半期開示制度が投資家(とりわけ機関投資家)の四半期業績動向ばかりにとらわれた短期的な投資姿勢を助長し、そうした投資家に迎合する企業経営者の短期志向につながるという批判は根強い。

とりわけ2000年代に入って初めて四半期開示制度の統一的な導入が検討されるようになった欧州連合(EU)ではそうした意見が強く、2013年にはEU構成国に対して四半期開示の義務付けを禁じる改正透明性指令(Directive 2013/50/EU)が法制化されている。ヌーイCEOが、「欧州の情報開示制度との調和」を四半期開示制度見直しの狙いとして挙げたのは、そうした経緯を踏まえたものだろう。

もっともEU指令の趣旨は、構成国の立法による情報開示の頻度を規制するにとどまり、各国の取引所が自市場上場企業に対して、年次報告及び半期報告を超える頻度で財務報告の定期的な開示を求めることまでをも制限するものではない。事実、ドイツ取引所の上位市場区分であるプライム・スタンダード市場のように、透明性指令の改正後も取引所規則によって四半期ベースの情報開示を求めている例もある。これは、少なくともグローバルな機関投資家の投資対象となるような上場企業に対しては、経営状況の透明性を確保するためにも四半期財務情報の開示を義務付ける必要があると考えられるためである。

四半期開示が短期志向を助長する証拠はない

そもそも、四半期開示制度が投資家や企業経営者の短期志向を助長するという見解に対しても、その根拠が薄弱なのではないかという疑念がある。

四半期開示制度の発祥地とも言える米国では、大恐慌後の市場制度改革立法である1934年証券取引所法の制定当時から四半期報告に関する規定が設けられており(13条(a)項(2))、取引所規則による四半期開示はそれ以前の20世紀初頭から制度化されていた。法律の定めに基づいて提出すべき報告書の記載事項などの詳細はSECの規則によって定められ、1955年から1970年までは半期報告書の開示のみが義務付けられるといった変遷もあったが、1970年の規則改正で当時の半期報告書様式9-Kに代わる四半期報告書様式10-Qが設けられて今日に至っている。

このように現在の制度だけをとっても米国の四半期開示制度は50年近い歴史を有する。米国経済の著しい成長と発展をみれば、その間米国企業が、常に短期的な経営姿勢に終始してきたとするのが妥当な考え方とは思えない。

また、EUにおける制度の改変を背景に2007年から2014年までの7年間だけ、上場企業に対する四半期開示の義務付けが行われた英国について、開示制度の導入が経営者の短期志向を助長したり、開示制度の廃止が経営の長期志向化につながったりしたという事実があるのかどうかを検証した興味深い研究論文が公表されている。その内容について詳しくは、当コラムの別稿をご参照頂きたいが 、その結論は、四半期開示の導入が経営者の短期志向につながったり、その廃止が長期的な観点からの投資を活発化させたりしたという証拠は見出せないというものであった。

批判される四半期業績予想

トランプ大統領のツイッターでの発言は、米国の企業経営者の共感を集めているばかりでなく、日頃同大統領に対して批判的な姿勢を示すことの多いフィナンシャル・タイムズやCNNによっても比較的好意的に受け止められているようである。もっとも、それは必ずしも四半期開示制度を直ちに撤廃すべきとの意見が強いということではなく、四半期ベースの情報開示が市場に好ましくない影響を及ぼしている面があるのではないかとの問題意識が幅広く共有されているということに過ぎない。

例えば、トランプ発言に先立つ2018年6月には、大手銀行JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン会長兼CEOと長期的な観点からの投資哲学で知られるバークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット会長が、四半期ベースでの業績予想開示が企業経営の短期志向を助長しているので止めるべきだと主張して注目を集めた。

この主張の背景には、いわゆるフェア・ディスクロージャーを求める2000年のレギュレーションFD施行後、当四半期、来四半期などの業績予想を公表する企業が増えた結果、いったん公表した予想値に実際の業績を無理に近づけようとするような経営者が現れているのではないかという問題意識がある。

ちなみに米国の上場企業は、売上高や利益の絶対値を予想値として公表する日本企業とは異なり、四半期の予想業績を一株当たり利益(EPS)の形で示すことが多い。EPSの数値は、自己株式の取得等によって株式数を調整することによっても変化させることが可能であり、実際の業績を自らの予想値に近づけようとすることが、直ちに粉飾決算を意味するわけではないという点には注意が必要である。

また両氏は、いわば自ら公表した予想値によって自縄自縛の状態に陥る企業経営者を批判しようとしただけであって、四半期の業績情報開示については、米国の上場株式市場の不可欠な部分だと述べて、その廃止を求めるわけではないという姿勢を明確にしていた。今回のトランプ大統領によるツイッター発言についても、投資家に与えられる情報の量を減らすことの問題性を指摘する声も少なくない。

四半期報告書廃止へのハードルは高い

トランプ大統領が、四半期開示を止めて半期開示にすることが「費用の節約にもなる」と述べた通り、義務的な情報開示の頻度を下げれば、開示資料の作成や公認会計士によるチェック(正式な監査とは限らない)に伴う上場企業の負担コストは大きく低下する。しかし、投資家の側からすれば、情報開示の頻度が低下することは投資判断に有益な情報の減少につながるので容易に受け入れがたい。

幅広い投資家層からの資金調達や株価連動報酬制度の活用、株式交換によるM&A(買収・合併)など、株式上場に伴うメリットを享受するのであれば、一定の情報開示コストの負担は当然のこととも言える。情報開示制度の設計は、開示に伴うコストとそれによるメリットとのバランスを考慮して慎重に行われるべきであろう。

トランプ大統領は、SECに対して制度見直しの検討を「指示した」と述べるが、SECは大統領に直属する行政機関ではなく、いわゆる独立行政委員会である。委員長以下5名の委員は、大統領による指名と上院による助言と承認に基づいて任命されるが、3名を超える委員が同じ政党に所属してはならないとされ(1934年証券取引所法4条(a)項)、政治的中立性が強く求められている。一国の大統領の発言を軽視することは決してできないが、米国の制度上、大統領といえどもSECに対して具体的な行動を「指示」することなどできないという事実は踏まえておく必要がある。

今後、米国では四半期開示制度や四半期業績予想のあり方をめぐる議論が活発化するものと考えられるが、50年近くにわたって存続してきた四半期報告様式10-Qを一挙に廃止することのハードルは高い。「投資家の守護者」を自認するSECが、大統領による「指示」を受けたとはいえ、容易に入手できる情報量の大幅な減少に直結する制度改正を推進するとは考えにくい。いずれにせよ、今後の動向が注目されよう。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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