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年内にも米金融政策の修正観測が広がる可能性

2018年08月27日

FRBの今後の金融政策は「データ次第」

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月24日、ワイオミング州ジャクソンホールのシンポジウムで講演した。大方の予想通り、先行きの金融政策について直接的な言及はなく、金融市場の大きな材料とはならなかった。足もとの景気情勢が良好なことから、現状の慎重な金融政策の正常化姿勢を当面維持する考えが示された。

他方、インフレリスクを測るうえで重要な自然失業率、金融政策の正常化の進展を測る観点から重要となる自然利子率などについては、正確な計測が難しいということを、パウエル議長は今回ことさら強調している。これは、今後の政策運営が「データ次第」のプラグマティックな手法となることを意味していよう。


インフレ加速への警戒は強くなく経済重視

今回のパウエル議長の講演で最も注目されたのが、以下の発言ではないか。“While inflation has recently moved up near 2 percent, we have seen no clear sign of an acceleration above 2 percent(インフレ率は足もとで2%に近付いたが、2%を超えて加速する明確なサインは見られない)”。

これは、景気(雇用)と物価の双方のリスクに注意を払うFRBの政策姿勢のうち、現状では、物価上昇率が高まる方向のリスクは強く警戒していないことを意味しよう。裏返せば、物価指標よりも景気指標が政策運営により大きな影響を与え、景気の堅調が続けば現在の年4回ペースの利上げが維持される一方、景気下振れを示唆する経済指標が見られれば、利上げペースの鈍化や利上げ停止が生じやすいということが考えられる。

FRBの見通し中央値では、経済に中立的と考えられる政策金利の中長期の均衡水準は3%弱である。現状の0.25%ずつ、年4回の政策金利引き上げペースが維持されれば、政策金利がその水準に達するのは来年中頃となる。ただし、政策金利がその水準に達するまでは、現在の利上げペースが維持され、それ以降、FRBは「データ次第」の柔軟な政策姿勢に転じる、と考えるのは誤りなのではないか。政策金利の中長期の均衡水準は、景気(需給ギャップ)に対して中立的な実質短期金利、つまり自然利子率の想定値から算出されているのだろうが、既に述べたように、その水準自体が不確実であることをパウエル議長は認めている。


来年の利上げ打ち止め観測が年内にも広がる可能性

さらに、経済に中立的と考えられる政策金利の中長期の均衡水準が3%弱であるというのが、FRB内での平均的な見方であるとしても、自然利子率は緩やかに高まる(回復する)途上にあるという見方が広く共有される中では、現時点、あるいは近い将来での中立水準は3%弱よりも低いと考えられる。

2年、10年などで測る長短金利の逆転が視野に入ってきたことや、中長期の期待インフレ率が足もとで下振れていることなどは、FRBに景気に配慮した運営を促す材料だ。また、トランプ大統領の利上げ牽制について、FRBは反発する姿勢をみせつつも、将来、利上げの行き過ぎで景気が悪化したとの見方が広くなされるような状況に至ることは回避したいところだ。その場合には、トランプ大統領からのFRB批判はさらに強まり、金融政策の独立性が著しく損なわれるリスクが高まるためだ。この点から、景気下振れを示唆する経済指標が見られれば、FRBは迅速に現在の利上げ姿勢を修正する可能性があるだろう。

足もとでの米国経済の良好さは、昨年末に実施された大型減税による一時的な側面も強い。米国以外の主要国では、既に成長ペースの鈍化傾向が現れており、その影響が今後は米国に及んでくることが考えられる。こうした点を踏まえれば、来年に入ってからではなく年内にも、FRBの利上げペースの鈍化や来年に入ってからの政策金利の頭打ち観測が市場に広がり、ドル安、米長期金利低下など金融市場の大きな動きへと繋がる可能性があることに留意しておきたい。


Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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