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トランプの追加関税乱発阻止の動き

2018年08月08日

貿易政策を巡る米大統領の権限

トランプ大統領による追加関税の乱発が続いている。これは大統領権限で執行されているため、米議会はそれに歯止めを掛けることができない。

貿易政策分野における米大統領の職務については、大統領権限で行うことができるものと、議会の立法が必要なものとの2種類がある。

前者について第1が、通商協定の終結・破棄である。トランプ大統領が大統領令で環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの離脱を実施したのが実例だ。この権限は、1974年通商法125条bで規定されている。現在再交渉中の北米自由貿易協定(NAFTA)の破棄も、この大統領権限で実施できる。第2が、通商法の執行強化である。これは、通商法で規定されている貿易救済措置などの発動だ。第3が、為替操作国の認定である。米財務省は年2回公表する為替報告書の中で、為替相場を不当に操作している為替操作国を挙げ、それに基づいて大統領が為替操作国を認定する。

他方、後者の議会の承認が必要なものについては、第1が、新たな通商協定の締結、既存の協定の見直しである。最近では、2018年3月に合意された米韓自由貿易協定(FTA)の修正がある。NAFTAが見直される場合でも、議会の承認が必要となる。TPPについては、その発効には米議会の承認が必要だったが、破棄については、大統領権限で行われた。

ちなみに、新たな通商協定の締結、既存の協定の見直しに議会の承認が必要であることは、合衆国憲法第1章第8節に規定されている議会の権限のなかの第3項に示されている、「外国との通商と各州間ならびにインディアン部族との通商を規律すること」に基づくものだ。第2は、当初共和党が主張していた国境調整税など税制変更である。


米議会にトランプの追加関税乱発阻止の動き

トランプ大統領による追加関税措置のなかで、特に米議会で問題視されているのが、米国の安全保障を脅かすという理由で輸入制限を認めている、通商拡大法232条に基づくものだ。既に導入された鉄鋼・アルミ製品への追加関税は同法に基づくものであり、またトランプ政権が、現在導入を検討している自動車及び自動車部品への追加関税導入も、同法に基づく措置だ。しかしともに、米国の安全保障を脅かす、というのは口実に過ぎないことは明らかであり、より迅速に大統領の権限で追加関税を課すための手段である。

他方、この通商拡大法232条に基づく大統領の追加関税措置に歯止めをかけることを目指して、米上院の超党派グループが8月1日に、議会に提出する予定の法案を公表した。そのグループとは、共和党のロブ・ポートマン上院議員、共和党のジョニ・アーンスト上院議員、民主党のダグ・ジョーンズ上院議員の3人だ。そして法案の中身は、通商拡大法232条に基づく輸入制限措置を大統領が発動する際には、まず、国防省がその措置が米国の安全保障を維持する観点から正当化されるかどうかを判断し、そこで認められた場合には、さらに商務省が具体的措置を決める、というものだ。これは既に通商拡大法232条に基づいて導入された鉄鋼・アルミ製品への追加関税には適用されない。それが標的としているのは、トランプ政権が導入を検討している自動車及び自動車部品への追加関税導入を阻止することにある。

また、他の共和党議員からも、通商拡大法232条に基づく追加関税を大統領が導入する際には、米議会の承認を必要とする法案が提出されている。これらは、現状では法律として成立する可能性は低い。特に下院での承認を得ることは難しいだろう。しかしこのように、与党共和党内からトランプの追加関税乱発阻止に向けた動きが複数出てきているのは見逃せないだろう。

また、財界ロビー団体であり、米企業の最高経営責任者(CEO)で構成される「ビジネス・ラウンドテーブル」は、ポートマン上院議員らの法案を支持する考えを明らかにしている。こうした傾向が議会あるいは産業界でより強まっていけば、トランプ大統領の追加関税の乱発に、少なくとも一定の歯止め効果となるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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