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中央銀行の独立は人類の智慧の一つ

2018年08月03日

トルコ中銀の政策金利据え置きでトルコ・リラ安が再燃

中央銀行の金融政策に政治が介入してその独立性を脅かすと、金融市場を混乱させ、国民の利益が損なわれる。そうした実例を今、トルコで見ることができる。トルコ中央銀行は7月24日に開かれた金融政策決定会合で、政策金利の据え置きを決めた。これをきっかけに、為替市場ではトルコ・リラ売りが再び強まったのである。

今回の決定会合は、トルコの中央銀行の独立性を占ううえで、いわば試金石だった。憲法改正で議院内閣制から大統領に権力を集中させた大統領制へ移行した新体制の下、初めて開かれた決定会合であったからだ。6月の大統領選後には、エルドアン大統領は中央銀行の正副総裁と政策委員を大統領が任命すると定めた大統領令を出したうえで、金融政策決定に大統領の権限が及ぶことを強く主張し、また利上げをけん制するような発言を繰り返していたのである。

トルコ中央銀行は、インフレリスクの高まりに配慮すれば政策金利の引き上げで対応するが、大統領の権限が金融政策に強く及んでいるのであれば政策金利を据え置くことを強いられる、と市場は見ていた。


金融政策への政治介入の危うさ

大統領の意向を汲んで中央銀行が今後も政策金利の引き上げを控える場合には、インフレリスクはさらに高まり、それが通貨安傾向を強めてしまうだろう。さらに通貨安が進めば、それが輸入物価を上昇させインフレリスクを高めるといった形で、双方がスパイラル的に進行してしまう。

エルドアン大統領は、政策金利を上げればインフレ率を高める、と発言したことがある。これは、インフレ率が高い局面では政策金利も高い傾向にあるという現象面を捉えたもので、両者の因果関係を取り違えたものではないか。この程度の知識で大統領が金融政策に介入するのは、非常に危険なことだ。

金融政策運営は専門性が高いことから、専門家集団がそれを担い、さらに中長期の観点から通貨価値を守り、国民の利益となるように運営されるのが良い、というのが、中央銀行が政治から独立して金融政策を担うようになってきた歴史の背景にある。こうした認識は長い歴史の中で培われてきた人類の智慧の一端でもある。このような点を踏まえれば、国ごとに制度が異なるとはいえ、一般的に、政府は金融政策の独立性を尊重すべきである。


トランプもいよいよ金融政策に言及

中央銀行に対する政治の関与という観点から、最近もう一つの事例があった。トランプ大統領が、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを好ましく思っていないことを語ったのである。トランプは大統領選の際にもFRBあるいは当時のイエレン議長を明確に批判していた。むしろトランプ大統領が就任後今日まで、金融政策に直接言及しなかったのは不思議なほどだ。それは金融政策以外の分野、例えば税制改革、貿易政策、安全保障政策、移民政策などに関心が向いていたためだろう。

しかしトランプにとっては普通の言動であっても、これは、政府は金融政策に直接意見を言わないという長年の不文律を破るものだ。特に今の局面では、これはかなり危険なことではないか。トランプが乱発する追加関税は、少なくとも一時的には物価上昇率を高める可能性がある。このような局面でFRBの利上げが政治的に妨げられるとの観測が市場に広がれば、それは金融政策がビハインド・ザ・カーブの状況へと陥り、中長期的なインフレリスクを高めてしまうとの見方につながるだろう。それは長期金利の上昇をもたらし、現在フラット化している米国のイールドカーブを一気にスティープ化させてしまう。こうした動きは、新興国からの資金の引き上げなどを通じて、グローバルな金融市場の安定性を大きく損ねてしまう可能性を秘めている。

政府が中央銀行の独立性を尊重するという長い歴史から形作られてきた慣例には、明確な経済合理性がある。政治はこれを十分に理解して、慎重な言動を心掛けねばならない。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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