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逆風強まる日銀金融政策

2018年07月23日

5か月半ぶりの指値オペ

日本銀行の金融政策に、俄かに逆風が強まってきた。7月23日には、操作目標としている国債10年利回りが0.09%と、日本銀行が事実上の上限としている0.1%に接近したことを受けて、10年国債を0.11%で無制限に買入れる「指値オペ」を実施したのである。指値オペが実施されたのは、日本銀行の政策正常化期待や米国長期金利上昇を受けて、国内長期金利の上昇傾向が強まった今年2月2日以来、5か月半ぶりのことである。また指値の水準は、2017年2月、7月、今回と3回連続で0.11%となり、0.1%という事実上の上限を守る日本銀行の姿勢がアピールされた。


副作用に対応した政策変更の観測が浮上

週明け後、10年国債利回りが先週末から6bp(ベーシスポイント)程度と大きく上昇したのは、週末に相次いだ幾つかの報道の影響である。ある報道では、次回7月30、31日の金融政策決定会合で、日本銀行が現在のイールドカーブ・コントロールを修正して長期金利の目標を柔軟化する、つまり事実上の変動許容幅を拡大する可能性が指摘された。

また別の報道では、次回会合では政策の変更は実施しないが、声明文に副作用に配慮した政策の検討を示す文言を入れる、との観測が示された。こうした報道を受けて、10年利回りを上昇させるような措置が近く講じられるのではないか、という観測が市場で俄かに広がったのである。


深刻化する国債市場の流動性・機能低下

さらにこのような政策変更の観測が浮上してきた背景には、国債市場の流動性低下、機能低下が深刻になっていることがある。6月に入ってからは、10年国債の業者間取引が成立しない日が多発したのである。こうした流動性低下は、日本銀行が大量の長期国債を買入れ続けていることによってもたらされている。そこで6月には、日本銀行は長期国債買入れ額を一段と低下させるオペレーションを見せた。

しかし長期国債、とりわけ指標となる新発10年国債の流動性低下は、日本銀行の国債買入れ策によって引き起こされていると同時に、10年利回りを0%程度に維持するという、イールドカーブ・コントロールによっても促されているのである。このもとで価格変動が小さい状況が続くなか、金融機関が10年国債を売買するインセンティブは着実に低下していった。さらに銀行、証券会社では国債取引の担当者は大幅に削減されている。これは、市場機能の大幅な低下を意味するだろう。流動性が低下し、市場機能が低下したもとでは、国債市場は外部からのショックに非常に脆弱になってしまう。海外金利が大きく変動するなどのショックが生じれば、流動性が極度に低下したもとでは、国債市場の利回りが急速に変動幅(ボラティリティ)を高めてしまう可能性がある。これは金融市場全体の安定性に大きな打撃を与えてしまうだろう。

日本銀行がこうした国債市場の流動性問題に配慮して、今まで続けてきた長期国債買入れペースの減額、いわゆるステルス・テーパリングに加えて、イールドカーブ・コントロールの修正に動くとの観測が強まってきたのである。


10年金利目標の柔軟化は難しいか

ただし一部で報道されているように、10年国債利回りの変動レンジを、現在の上下10bpずつから、20bpずつなどへと柔軟化する可能性は低いのではないか。長期金利の上昇を無理やり抑え込んでいる現状のもとでは、海外金利が上昇する際や日本銀行の金融政策正常化期待が高まる際には、10年国債利回りは一気に引き上げられた上限まで高まってしまうだろう。その結果、そうした変更は、流動性を多少高めることには貢献しても、イールドカーブ・コントロールの持続性を高めることには貢献しないからである。

筆者は多くの問題を抱えるイールドカーブ・コントロールは廃止すべきと考えているが、廃止に至るまでの移行措置としては、目標値を10年から5年に移すのが妥当であり、メリットが大きいものと引き続き考えている。


「正常化」ではなく「調整」

日本銀行が仮にイールドカーブ・コントロールの枠組みを修正する場合でも、それは「正常化」ではないことを強調するはずである。物価上昇率が下振れるなかで正常化策を採用すれば、それは2%の物価目標の達成を目指す姿勢と整合的でなくなってしまう。その場合に用いる言葉を日本銀行はかなり以前から準備している。それは「調整」である。さらに、副作用への対応としてこの「調整」を実施するといった後ろ向きの説明ではなく、もっと前向きな説明を準備するのではないか。

日本銀行はかつて強く批判された「サプライズ戦略」は封印している。従って、次回会合でいきなりイールドカーブ・コントロールの修正を発表する可能性は限られるだろう。しかし「正常化」ではなく「調整」と説明することで、2%の物価目標との非整合性を回避するのであれば、そうした決定は物価情勢には左右されず、ある意味いつでも実施可能の状態にある。


「調整」はいつでも実施され得る

筆者は国債市場の流動性・機能低下への配慮に加えて、イールドカーブ・コントロールの持続性、安定性への配慮が、日本銀行がイールドカーブ・コントロールの枠組みを修正する、大きな誘因になるのではないかと考えている。この観点からは、米国を中心とする海外長期金利の変動がそのきっかけになるのではないか。

サプライズ戦略は封印したと言っても、比較的短い周知期間で日本銀行がこうした事実上の政策変更を行う可能性は常にあるものと考えておくべきだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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