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米中貿易戦争が中国金融リスクの引き金に

2018年07月18日

中国で社債のデフォルトが急増

中国では社債発行の中止や延期が相次いでいる。報道(経済参考報)によれば、2018年年初から6月中旬までに総数363本、総額規模で2,270億人民元(約3.9兆円)相当が中止・延期されたという。その背景には、低格付社債を中心に信用リスクが懸念されていることがある。実際のところ、社債のデフォルト(債務不履行)は増えてきている。フィッチ・レーティングスによれば、2018年年初から6月上旬までに12社の発行体がデフォルトに陥った。2017年年間ではデフォルトに陥った発行体は18だったことから、増加ペースは明らかに高まっている。

社債のデフォルトは、シャドーバンキング(影の銀行)からの資金調達に頼る傾向が強い不動産開発会社や地方政府の資金調達事業体「融資平台」で今後特に増えることが予想される。

デフォルト増加は金融システムリスクに

ところで中国政府は社債のデフォルトは、ある程度容認している面がある。しかし今後デフォルトが増加すれば、それを保有する中小銀行の財務リスクが高まるだろう。さらに投資信託の一種である理財商品で運用されている社債のデフォルトが増えると、理財商品の運用パフォーマンスが低下して個人投資家が理財商品から資金を引き上げ、それが理財商品の破綻にも繋がり得る。投資会社の理財商品には、銀行が資金の出し手、投資先、(暗黙の)保証先として深く関わっており、その破綻は銀行システム不安に直結する可能性もあるだろう。

特に注意が必要な分野が不動産開発だ。この分野の社債の償還は2020年にかけて急増する。国際決済銀行(BIS)によれば、同分野で満期を迎える社債の金額は、2018年の144.6億ドルから2019年には295.0億ドル、2020年には377.9億ドルと急増する。このタイミングで社債の再発行ができなければ、デフォルトが多発することになるだろう。また2020年に償還を迎える同分野の社債のうち、およそ3分の1が外貨建て社債である。そのデフォルトは、海外投資家の損失を通じて、グローバルな金融市場のリスクともなろう。

中国企業のドル建て社債がデフォルトに

実際、中国企業のドル建て社債のデフォルト問題も生じている。2018年5月に中国の石油・ガス供給会社「中国国儲能源化工集団(CERC)」のドル建て社債3.5億ドルが、デフォルトした。中国本土企業のドル建て債のデフォルトは、香港上場の不動産開発会社「新昌集団(シンチョン・グループ・ホールディングス)」に続き、2018年に入って2社目となった。

中国企業は外債発行による資金調達を膨らませており、2018年1-4月の発行額は870億ドルと、すでに前年同期の2.8倍にのぼっている。中国企業による外債発行は2017年半ば頃から目立って増え始めたが、その背景には、政府の規制を逃れる規制アービトラージの動きがある。2017年秋の共産党大会以降、中国政府が国内銀行の貸出抑制、企業の債務圧縮(ディレバレッジ)を促す姿勢を示すなか、中国企業は海外での社債発行に資金調達の活路を見出したのである。

外債発行による資金調達を進める企業の中には、地方政府系の投資会社「地方融資平台」もある。2018年に入ってからでも青海省や新疆ウイグル自治区、遵義市(貴州省)などの融資平台が外債を発行している。青海省の融資平台の場合には、格付けが低いことから8%に近い利率での資金調達となっている。融資平台は主に地方のインフラ整備などを手掛けており、本来、外貨を調達する必要性はない。それでも外債発行を通じた資金調達に動くのは、政府による債務圧縮策を受け資金手当てが難しくなっていることがある。

中国では1990年代末に地方政府系ノンバンクで債務不履行が発生して、外国銀行などが多額の損失を被った事例があるが、同様の事態が生じることを懸念する向きもある。

米国との貿易摩擦発生が政府の構造改革の継続に逆風

こうした脆弱な社債市場に新たな脅威となっているのが、米国との貿易摩擦問題だ。それが先行きの景気悪化観測から、社債の信用リスクを一段と高めている。米国が中国から輸入される500億ドル分の追加関税実施を発表した後、場合によってはさらに4,000億ドルの輸入品に制裁関税を課す可能性を米政府が示唆して金融市場が動揺した2018年6月19日には、中国人民銀行(中央銀行)は異例の大規模流動性供給を行った。また、6月24日には、市中銀行の預金準備率を0.5%引き下げると発表した。これらは、景気悪化への懸念を強める国内金融市場の安定を狙ったものである。

今後も米国との貿易摩擦が続き、中国経済への悪影響が懸念され続ければ、金融政策は緩和的姿勢を強めることが求められ、また公共投資の拡大など、財政支援も検討されよう。しかしその場合には、企業の債務を削減し、国内金融リスクを削減していくという従来からの政策方針とは逆行してしまう。悪化した対米貿易摩擦問題は、構造改革を通じた金融リスクの抑制と景気配慮という2つの課題を睨んで、中国政府の対応を俄かに難しくさせている。

米中貿易戦争が中国金融危機の引き金に

米中貿易戦争が激化した場合、それは幾つかの経路を通じて中国の金融危機の引き金となってしまう可能性がある。第1は、報復関税の応酬は中国経済を減速させる。それを受けて国内社債のデフォルト(返済不能)が急増する場合には、それに投資する理財商品に損失が生じ、それを受けて個人が理財商品から一気に資金を引き上げれば、返済資金を確保できない理財商品、それを発行している投資会社が相次ぎ破たんするだろう。多くの理財商品は互いに投資し合っているという構図にあるため、一つの理財商品の破綻は連鎖的な破綻を生みやすい。その際、理財商品に融資あるいは投資している銀行や生命保険会社の財務リスクも一気に高まろう。またそれを受けて貸出の抑制が進めば、中国経済はさらに減速を強いられ、上記のメカニズムがまた繰り返されてしまう。こうした金融リスクによって、米中貿易戦争が世界経済にもたらす悪影響が増幅されてしまうだろう。

第2は、中国企業のドル建て社債を通じた経路である。米国での関税率の大幅引き上げが米国内でのインフレリスクを高め、長期金利が上昇すれば、それはドル建て社債を発行する中国企業の利払い負担を高め、また新規のドル建て社債発行を通じた資金の借り換え(ロールオーバー)を困難にし、ドル建て社債のデフォルトを増加させるだろう。

他方、米国への対抗策の一つとして、中国当局が人民元安の誘導を続ければ、人民元換算でのドル建て社債の元利負担を増加させ、やはりドル建て社債のデフォルトを増加させるだろう。これは上記のメカニズムを通じて中国の金融危機を引き起こし、米中貿易戦争が世界経済にもたらす悪影響を増幅してしまうだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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