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米中貿易戦争の拡大は米消費者にも被害が及ぶ段階に

2018年07月11日

米政府が2,000億ドルの関税対象リストを発表

米通商代表部(USTR)は7月10日、中国からの輸入品2,000億ドル(約22兆円)相当について新たな関税対象リストを発表した。米国は7月6日に既に決めていた500億ドルの制裁関税のうち340億ドル分について発動し、それ対して中国も即座に報復関税の発動を決めていた。

トランプ大統領は、中国が報復措置をとる場合には、追加で2,000億ドル、中国側がさらに報復措置をとればさらに2,000億ドル、合計で4,000億ドルに10%の追加関税を課す考えを既に表明していた。そうした事態に至れば、2017年実績で5,050億ドル規模の中国からの輸入品のほとんどが関税対象となってしまう。今回の関税対象リストの発表は、こうしたトランプ政権の方針に沿ったものだ。

今度は米消費者にも打撃に

問題は、トランプ政権が実際に2,000億ドルの追加関税措置を決めれば、それは米国の消費者にも大きな打撃となる点だ。500億ドルの制裁関税については、トランプ政権は米国消費者の打撃とならないように注意を払い、対象品目のうち消費財を1%程度に抑える措置を講じたのである。

しかし中国からの輸入品には、携帯電話、パソコン、衣料品、玩具・ゲーム用品などまさに消費財が上位を占めている。2,000億ドルへと関税対象を広げる場合には、消費財を除外することはもはや無理である。

実際200ページに及ぶ報告書に示された関税対象リストには、野球のグローブ、ハンドバック、犬の首輪、デジタルカメラなど消費財が並んでいる。

米中貿易戦争の激化は、世界経済の大きなリスク

経済協力開発機構(OECD)のモデル計算によれば、米国、欧州、中国の3か国・地域で貿易財の関税率が10%引き上げられると、世界の輸出、輸入はそれぞれ6%ずつ低下し、世界のGDPは1.4%押し下げられる。また内閣府のモデル計算によれば、世界の需要が6%低下すると、当事者ではない日本のGDPも1.9%低下する。

こうした事態に至れば、日本を含め世界経済は後退局面に入ることになろう。トランプ政権の政策は、そうしたリスクを高める方向へと歩みを進めている。米中貿易戦争の激化は、間違いなく世界経済の大きなリスクである。

米国内での反発に注目

米政府当局者らによれば、今回発表された追加関税については、中国側の出方をにらみ、少なくとも向こう2か月は発動されないという。そして今後は、関税の対象の輸入品について、米企業などから意見を募ることになる。対象となる製品に関する公聴会は、8月20~23日に予定されている。

米中貿易戦争は既に中国向け大豆輸出の減少などを中心に、中西部の農家に大きな打撃を与えている。また、トランプ政権が検討している自動車追加関税については、米国の自動車メーカーも反対している。今回の措置が実際に導入されれば、米国の消費者にも大きな打撃となることが必至だ。

米国内での企業、農家、消費者の反発が一段と強まることが、米中貿易戦争をエスカレートさせるトランプ政権の貿易政策に歯止めをかけることになることを期待したいところだ。また、世界経済への悪影響を警戒した株価下落など金融市場の反応も、トランプ政権の政策をより慎重にさせることに貢献するかもしれない。こうした点も踏まえて、今回対象リストは公表されたものの、トランプ政権が中国に対する関税の対象を実際に2,000億ドルまで広げることは、現段階ではメインシナリオではなく、依然としてリスクシナリオの位置づけだ。

しかし、米中貿易戦争の背景にあるのは、経済力あるいは先端分野で中国が米国をいずれ凌駕することに対する米国の強い警戒心であり、さらに中国が米国に対していずれ軍事的に優位に立つのではないかという強い警戒心である。米国にとって中国の経済的、軍事的脅威がなくならない限り、米中貿易戦争が終わることはないのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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