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トランプとの貿易戦争で中国とEUは共闘できるか

2018年07月10日

メルケル首相はEU自動車関税率の引き下げを示唆

ドイツのメルケル首相は2018年7月5日、欧州連合(EU)が輸入自動車に課している関税率について引き下げを交渉する用意がある、と突如表明した。トランプ政権は安全保障上のリスクを理由に、他国からの自動車輸入に20%の追加関税を課すことを現在検討しているが、メルケル首相の発言は機先を制することでその翻意を促す狙いがあったのではないか。

EUの自動車関税率が高いことを、以前からトランプ大統領は批判していた。EUの自動車関税は現在10%と米国の2.5%よりも高い。ちなみに日本は0%だ。中国は25%だが、米国の批判を受けて2018年中に関税率を大きく引き下げる考えを既に表明している。こうした中で米国が20%の追加関税を決めれば主要国の中で関税率が最も高くなり、他国の貿易が不公正だというトランプ大統領の主張の根拠を突き崩すこともできる。ここにもメルケル首相の狙いがあるのではないか。

フォルクスワーゲンも米国生産移転を表明

ただしメルケル首相は、引き下げにはEU全体の合意が必要だと指摘し、さらに世界貿易機構(WTO)のルールに従ってすべての貿易相手国を対象とするとして、米国との2間交渉、取引にはならないとくぎを刺している。

貿易政策を巡る米国とEUとの対立では、ドイツが常に矢面に立たされてきた。それはドイツがEU最大の経済大国であるとともに、最大の経常黒字国であり、また米国に巨額の自動車を輸出しているためでもある。ユーロ圏の2018年1-3月期の経常黒字額はGDP比で3.9%に達した。これは2017年の3.5%から一層上昇している。この点も、トランプ大統領から攻撃されることをEUそしてドイツは恐れているのだろう。

ドイツのフォルクスワーゲン社は、トランプ政権への配慮、あるいは米国の輸入自動車追加関税導入の可能性を視野に入れて、米国に生産を移転する考えを既に示している。

EUと中国は直接投資の相互受け入れで接近

ところで、2018年7月6日に米国が中国からの輸入340億ドル規模に追加関税を課したことへの報復措置として、中国も同額、同率の追加関税導入を実施し、米中間での貿易戦争はいよいよ本格化した感もある。その一方で中国は、米国に対応していくためにEUに接近している。いわば共闘を模索しているのである。日本に接近しないのは、米国と同盟関係にある日本が、中国と足並みを揃えて米国の貿易政策を強く批判することは考えにくいためだろう。

具体的には中国は、EUからの直接投資をより積極的に受け入れる姿勢を示すことで、EUを取り込もうとしている模様だ。7月16、17日に北京で行われる中国と欧州の首脳らによるサミットでは、両地域間で直接投資をより積極化させることが話し合われる。両地域は投資協定の締結を目指している。

実はこの協議は2013年に始められたが、中国側が真剣に投資を受け入れる気がないとのEU側の批判があり、議論はなかなか進んでいなかった。そうして交渉が進まない間に、中国は欧州地域への直接投資を急増させ、これがEU側を刺激してしまった。この結果2017年にEUは、海外からの投資をより厳しく審査する制度を取り入れたのである。

投資を巡るEUと中国との協議を再び前進させるきっかけとなったのは、今年に入ってから証券業など金融分野で外資規制を緩和する姿勢を中国が示し、欧州の金融業がその恩恵に最も浴す見通しになったことがある。

知的財産侵害でEUは中国と共闘できない

しかしこうした中国側の働きかけにも関わらず、EUの首脳らは、EUは米国の貿易政策に対して中国と共闘することはない、と態度を明確にしている。それは中国が国有企業などを使い、海外の企業にアクセスあるいは買収することなどを通じて、外国の技術や知的財産を奪うという知的財産権の侵害を行っているという認識をEUは米国と共有しているためである。

2018年6月にEUは、米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置が国際貿易ルールに反するとしてWTOに提訴したが、同時に知的財産権侵害で中国も提訴している。EUを味方につけることで米国に対抗するという中国側の戦略は実現がなかなか難しいようだ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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