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シリコンバレーでの米中の熾烈な争い

2018年07月09日

中国のベンチャーキャピタルが米国スタートアップ企業の投資を拡大

トランプ政権は、米国企業の先端技術、知的財産が中国に流出することを強く警戒し、中国からの投資をターゲットに、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査権限を強めることを目指している。米議会下院は6月26日に、通信のような重要なインフラに関わる企業買収などにCFIUSの審査対象を拡大する法案を、党派を超えた支持を得て可決した。上院も既に類似の法案を可決していることから、今後は両者を一本化した法案を成立させる見通しだ。こうした審議の進展を受けてトランプ大統領は、当初目指していた新たな投資規制を適用するのではなく、既存の仕組みを強化することで先端技術、知的財産の流出問題に対応するように軌道修正をしたのである。

今後大きな焦点となるのは、中国資本が入ったベンチャーキャピタル(ベンチャー企業投資ファンド)の扱いだ。米国でのITスタートアップ(新規起業)企業の多くは、中国資本が入ったベンチャーキャピタルの資金に支えられている。これが投資規制の対象となれば、中国への先端技術、知的財産の流出を抑制することが可能となるかもしれないが、同時に米国のIT産業の発展に大きな打撃ともなりかねないためだ。

2015年から2017年に米国でスタートアップ企業に対して行われたベンチャーキャピタルの投資全体のうち、16%は中国系のベンチャーキャピタルによって行われた。また、2010年から2017年の間に中国系のベンチャーキャピタルは81の人工知能(AI)関連企業の13億ドルの資金調達に関わったという(Defense Innovation Unit Experimentalによる)。

中国企業の債務削減(ディレバレッジ)の一環として、中国政府は海外投資の拡大を抑制する政策を2017年から採用しており、既に中国企業による対米投資も急減している。そうしたなか、中国による対米投資抑制策の焦点は、中国系のベンチャーキャピタルの扱いに移っているようにみえる。

中国企業・資本がシリコンバレーに進出する狙い

そこで以下では、フィナンシャルタイムズ紙の記事(注1)を参考に、シリコンバレーなどを舞台にした、先端技術、知的財産を巡る米中の熾烈な争いの現状をみてみる。

カリフォルニア州、サンタクララ、グーグルやアップルの本社の近くに中国のベンチャーキャピタルZDG(Zhong-guancun Development Group)、ZGCイノベーションセンターの拠点がある。最近新たに作ったボストンの拠点は、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)に挟まれた場所にある。ZGCイノベーションセンターは、AI、ロボットを中心に先端技術のスタートアップ企業への投資を手掛けている。しかしZGCイノベーションセンターは、否応なく先端産業を巡る米国と中国との間の対立の前線ともなっているのだ。

ZDGは北京の先端技術企業が集積する地区で作られ、北京市が所有するベンチャーキャピタルだ。このことが、ZDGが中国の国家戦略に基づいて米国で投資活動を行っており、また先端技術、知的財産の中国への移転を図っているのではないかという米国政府の疑心を高めている。

ZDGはホームページで、中国政府の「一帯一路」の国家戦略の下で海外ビジネスを展開している、その目的はイノベーション・エコシステム(企業間連携)の海外での経験を学ぶことである、と明言している。同様に多くの中国企業や中国ベンチャーキャピタルが、知識とノウハウを吸収するためにシリコンバレーで活動しているのである。

企業ベースでは米中に協調関係も

先端産業を担う米国企業は、中国企業、資本を強く警戒しているばかりではない。彼らとの協調によってより良い技術が生み出されることを期待する経営者も少なくない。中国企業、中国ベンチャーキャピタル側から米国企業に友好的に協調を持ちかけるケースも多い。

3Dプリンターの製造を手掛ける米企業フォームラブス(Formlabs)は、投資家に資金調達を呼び掛ける際に、「自社が中国に勝つのを助けてくれる投資家を求む」とその目的を伝えた。それにもかかわらず、中国のベンチャーキャピタルがその投資に加わったのである。それは90年代に中国の深圳市が設立したShenzehn Capital Groupだ。フォームラブスによれば、中国のベンチャーキャピタルは同社への役員派遣や知的財産にアクセスする権利を求めなかったという。そのうえで、同社が将来中国で、顧客やサプライヤー(納品業者)との戦略的関係を築くのを助けることを約束したという。

このように米国企業と中国ベンチャーキャピタルとの間で信頼関係が生まれることもあり、企業間では単純に米中対立の構図とは言えない部分もある。

米国政府・議会では強い警戒感が残るが

米国の先端産業において、中国企業、中国資本は既に深く関与している。そのため、それらを排除していくことはかなり難しくなっている。米国政府が数年前にそうした戦略を始めていればそれは可能だったかもしれないが、いまでは既に手遅れとの指摘もある。

米国企業の間では、これを協調関係と前向きにとらえる向きもあるが、米政府、議会では警戒的なムードは概して強い。トランプ政権が中国への先端技術、知的財産の流出を強く警戒し、それに対する具体的な措置を講じることについては、民主党、共和党と党派を問わず、議会では支持されている。しかし制裁関税を用いる手法については、それを批判する向きも多いのである。

先述のフォームラブス(Formlabs)の最高経営責任者(CEO)のロボフスキー氏は、トランプ政権の中国からの投資を規制する政策によって、実際中国からの投資はかなり落ちてしまうことを懸念している。それによって米国企業と中国企業とがそれぞれ影響を与えあって良い技術、良い製品が生まれていくというダイナミズムが損なわれてしまうのではないかと危惧しているのだ。また中国との関係が薄れることで、将来同社が中国の安い労働力を活用して中国で3Dプリンターの製造をする道も閉ざされてしまうとしている。トランプ政権の中国からの投資規制という政策は、かなり目先の利益だけにとらわれたものであり、トランプ政権はより長い目で見て米国経済とハイテク産業を一層強くすることに焦点を当てた政策をとるべきと主張している。

このように、中国への先端技術、知的財産の流出問題とその対応についても、トランプ政権と米国企業との間にはかなりの認識ギャップが現在はあるようだ。


(注1)"The tech war behind trade move", Shawn Donnan, Financial times, July 6, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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