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スイスで仮想通貨、ブロックチェーン振興の国家戦略

2018年07月05日

スイスは仮想国家(crypto nation)を目指す

スイスには仮想通貨、ブロックチェーンに関わるスタートアップ企業が集積する「仮想バレー(crypto valley)」と別名で呼ばれる地域がある。それは、チューリヒ近郊に位置するツーク(Zug)という都市だ。ここにはブロックチェーン関連企業が200社も集まっている。

スイスは仮想通貨関連のビジネスで世界の先進国となる、「仮想国家(crypto nation)」を目指している。昨年には、ICO(新規コイン公開)を通じて調達した資金総額で、スイスは米国に次いで世界第2となった。

スタートアップ企業は銀行との取引を始める

他方、仮想バレー(crypto valley)のスタートアップ企業にとってビジネスの制約となってきたのは、スイスの伝統的な銀行と間で通常の取引ができないことだ。銀行がこうしたスタートアップ企業にアカウントを供給することを拒んできたのは、マネーロンダリング対策の障害になると考えたからである。そこでスイスのスタートアップ企業は、リヒテンシュタイン公国など隣国の銀行と取引せざるを得なかった。

しかし、仮想国家(crypto nation)を目指すスイス政府は、スイス中銀、金融規制当局と協力して、スイスの民間銀行に働きかけ、年末までにはスタートアップ企業が銀行サービスを完全に受けることができるように取り計らったのである。スイス政府はこの措置によって、スイスのスタートアップ企業の成長を妨げる要因を一つ取り除くことができたとしている(注1)。

スイスでもフィンテック企業と銀行との競合

この事例は、スイス政府が仮想通貨、ブロックチェーンに関連するビジネスの振興に、国家戦略としていかに前向きに取り組んでいるかを示していよう。スイスは、こうした産業の振興に国家として積極的に取り組んでいるマルタやシンガポールといった競合国を強く意識しているのである。

ただし、スイスの銀行側がスタートアップ企業へのフルサービスを受け入れた背景には、銀行サービスを受けられないスタートアップ企業が、自ら銀行業務に参入してくるという動きを見せており、それを阻止する思惑もあったのかもしれない。

例えばスイスには、ブロックチェーン技術を用いた資金運用サービスを提供するCoinlab Capitalという企業があり、そこはブロックチェーン技術を用いた決済プラットフォームを運営するTokenPay(イギリス領バージン諸島登記)とパートナーシップを結ぶことで合意した。この結果Coinlab Capitalは、TokenPayの運用部門を新たに担うことになった。

フィンテック企業と銀行との競合関係は、このようにスイスでもみられる現象である。また将来的に両者がどのような関係になっていくのかは、政府、金融当局の政策方針によって大きく影響を受ける。


(注1)"Swiss seek banking for crypto sector", Financial Times, July 3, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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