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米ストレステストと銀行の株主還元

2018年07月03日

米包括的資本分析審査(CCAR)では35社中34社が合格

米連邦準備理事会(FRB)は6月28日、ストレステストの第2段階にあたる、米金融大手の資本計画を判定する「包括的資本分析審査(CCAR)」の結果を発表した(注1)。ここで35行中34行は承認されたが、ドイツ銀米子会社の計画は却下された。FRBの説明では、このドイツ銀行の米中間持ち株会社については、資本の水準は十分だったものの、収入や損失の予測やリスク管理に際し、内部統制やデータ能力に広範囲に深刻な欠陥があったという。この結果、ドイツ銀行の米中間持ち株会社が親会社への配当も制限されることになり、経営難に苦しむドイツ銀行にとって更なる逆風となった。

今年のストレステストでは、とりわけ厳しい経済・金融環境、例えば失業率が10%を超えることや住宅・株価の下落がリスクシナリオで想定されたという。その結果、ゴールドマンとJPモルガンは、当初の配当、自社株買い計画を縮小することを強いられている。両行は、当初計画のままでは、危機時に一部の資本指標が最低基準を下回ることが明らかとなったため、配当、自社株買いという株主還元は「近年の実績」を上限とすることが求められた。

資本増強で拡大する米銀の株主還元

グローバル金融危機後は、銀行は自己資本の増強を迫られたため、収益のうち株主還元に回す部分は抑制された。しかし資本増強が進んだことを受けて、株主還元に回す部分は徐々に増加しているのである。2013年には収益のうち株主還元に回される比率は60%程度であったが、FRBによると今回のCCARに合格した34行では、予想収益の95%程度が株主還元に回される見通しだという。またシティグループとウェルズ・ファーゴについては、この株主還元率が100%を超えるという。

金融市場は、スキャンダルの影響もあり、ウェルズ・ファーゴが審査をパスしない可能性も想定されていたが、実際には自社株買いの規模を倍増させて245億ドルとし、配当を10%増額することが認められた。そのためCCARの結果が公表されると、ウェルズ・ファーゴの株価は大きく切り上げたのである。

成長のために余剰資金を活用することも模索

米銀の利益はこのように、規制強化のもとでの自己資本の充実から、株主貢献へとその使い道の比重を移してきたが、今後は成長のためにより使われることも展望している。JPモルガンのダイモンCEOは先月、「余剰資金を成長のためにより活用することが望ましいし、いずれはそうするだろうと自身は考えている」と発言している。

見えないドイツ銀行の成長戦略

こうした米銀の姿勢とは対照的に、米子会社が今回のCCARにパスできなかったドイツ銀行の成長戦略はなお見通せない状況だ。ドイツ銀行は「当局の期待に沿うよう努力を続ける」としたうえで、「今回の結果は、ドイツ銀行本体が利益を株主に貢献することを妨げない」と発表し、株主の不安を和らげることに腐心した。

ドイツ銀行はゼービング新CEOの下で広範な再編を進めており、先月には世界コーポレート戦略チームを解体したことが明らかになった。他方で、インドでは破産法の改正によって不良債権処理で与信業務に大きな商機が生まれるとして、ドイツ銀行はアジアでシンガポールに次いで2番目の収益源となっているインドでのビジネス拡大を狙っているという。

欧州の商業銀行業務に単純に回帰するだけにはとどまらない、グローバルな成長戦略の模索をドイツ銀行は捨てた訳ではないようだ。


(注1)"Goldman, Morgan Stanley Dinged in Fed Stress Tests", Wall Street Journal, June 29, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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