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ラストベルトからグレインベルト(穀倉地帯)へ

2018年06月29日

ラストベルトの復活を目指す

トランプ大統領の経済政策は、2016年の大統領選挙キャンペーン中から、自動車産業、鉄鋼業などの製造業やそこで働く労働者の利害に訴える戦略をとってきた。こうした産業は、かつては米国経済を牽引していたが、その後は海外企業との競争に敗れ衰退してしまった。このような産業が集中している地域がラストベルト(Rust Belt)と呼ばれている。「rust」は「錆(さび)」という意味で、使われなくなった工場や機械がさび付いていることを表現している。地理的には5大湖の南側に位置するミシガン州、インディアナ州、オハイオ州、ペンシルベニア州にまたがっている。

ラストベルトで成長から取り残され、強い怒りを抱えていた白人層を取り込み、ラストベルトを再び復活させるという主張が、大統領選でのトランプ勝利の原動力となった。現在の貿易政策も、ラストベルトの白人層の利益を高めることに重点が置かれており、実際、鉄鋼や自動車の輸入規制が実施あるいは検討されている。

さらに、ラストベルトで長年培われてきたエンジニアリングのノウハウをベースにして、新しい技術がこの地域に育ちつつある。それが液体水素燃料電池、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、認識技術などである。これらをラストベルト復活の起爆剤にしたいという考えがあることも、トランプ政権が中国への先端技術の流出を非常に警戒している背景にあるのだろう。

中国での輸入規制が米農家に打撃

トランプ政権は6月15日、中国からの500億ドル相当の輸入品に25%の追加関税を賦課すると発表した。中国はこれに対する報復措置として、米国からの輸入品500億ドル相当に25%の追加関税を課すことを即座に決めて発表した。その主な対象となったのが、農産物とエネルギー関連だ。

農産物のなかでも米国にとって大きな打撃となるのが、大豆に対する追加関税である。中国政府にとっては、秋の米国中間選挙をにらんでトランプ米大統領の票田である農業州を揺さぶる狙いがある。

ただしこの政策は、中国にとっても諸刃の剣だ。世界最大の大豆消費国である中国は消費量の9割を輸入に頼っており、米国産大豆はその消費量の2~3割を占めている。中国国内で大豆不足とならないよう他国からの大豆輸入を増やす目的で、中国政府は6月26日にインド、韓国、バングラデシュ、ラオス、スリランカの5か国から輸入する大豆の関税を3%からゼロに下げると発表した。その結果、中国国内での米国産大豆の価格競争力は、一段と低下することになってしまったのである。

この関税率引き下げを可能にさせたのは、中国、インドなど6か国によるアジア太平洋貿易協定だ。世界貿易機関(WTO)のルールを順守する立場の中国は、一部の国の特定商品に限って関税を下げることはできないことから、この協定がなければ、5か国に限って輸入大豆の関税率を引き下げることはできなかった。

また中国のメディアがこの決定を大きく報じた背景には、米国からの大豆輸入量が減っても対応可能であると、貿易問題で対立する米国にアピールし、また大豆不足に関する国内消費者の懸念を緩和する意図があったのだろう。

トランプ大統領が中間選挙に向けた地方遊説を本格化

トランプ大統領が中間選挙に向けた地方遊説を本格化させている。6月20日には中部ミネソタ州から遊説を始め、23日には西部ネバダ州、25日には南部サウスカロライナ州、27日は中西部ノースダコタ州、28日は中西部ウィスコンシン州を次々と回った。最後の3州は、大統領選でトランプ大統領の得票が、民主党候補ヒラリー・クリントン氏を上回っていた。自らのいわば「地盤」を地方遊説のスタートに選んだのである。しかしこれら中西部の州は、まさに農業州だ。激化する他国との貿易摩擦、特に中国との報復関税合戦の最大の被害者となっている農家が多くを占める地域であり、この農家の動向が選挙の行方を大きく左右しかねない。

米国は世界有数の農業大国で、とうもろこし、大豆、小麦のほか、畜産物の生産が盛んだ。とうもろこし、大豆は世界第1位の生産量を誇っており、ともに世界全体の生産量の約3割を占めている。アイオワ州、イリノイ州を中心とする中西部ではとうもろこし、大豆、ノースダコタ州、カンザス州等では小麦の生産が盛んである。大豆については、生産量全体の半分を輸出しており、このうち中国向けがおよそ6割を占めている。

ノースダコタ州の大豆業者の間では、貿易政策を巡り中国との対立姿勢を強めるトランプ政権への不満も高まっている。同州は大豆が最大の輸出品であり、生産された大豆の約85%を日本や中国などアジア向けに輸出している。また最大の輸出先は中国である。中国が正式に大豆に追加関税をかける7月6日を待たずに大豆の価格は大きく下落しており、大豆業者に既に大きな打撃を与えている。

トランプ大統領が中間選挙に向けた地方遊説を進める中、特に中西部の農業州では、貿易政策に対する批判を多く耳にすることになろう。そうした有権者の意見が、今年秋の中間選挙、あるいは2020年の大統領選挙に悪影響を与えると感じとれば、米国第一主義に基づく保護貿易主義を軌道修正していく可能性も出てこよう。

この点から、貿易政策でトランプ政権が重視する対象地域は、「ラストベルト」から「グレインベルト(穀倉地域)」へと、徐々に比重を移していくかもしれない。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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