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現在のイーサリアムは「有価証券」ではない ~米国SECの仮想通貨規制~

2018年06月28日

柔軟な姿勢を示す米国SEC

以前紹介したように、ビットコインやイーサリアムといった汎用性の高い仮想通貨の払込みを受けてトークンと称する新たな仮想通貨などのデジタル資産を発行するICO(Initial Coin Offerings)について、米国の証券取引委員会(SEC)は、連邦証券法による規制の適用対象となる「有価証券」の募集に該当する場合があると判断している(注1)。そしてSECは、法令で求められる登録を受けずに行われる違法ICOの摘発を進めている(注2)。

しかし、SECは、決して仮想通貨やICOを全否定しようとしているわけではない。むしろ幅広いネットワーク上で支払手段や価値保存の手段として活用される新たなデジタル資産が登場すれば、有価証券とみなされることによる不必要な規制を回避すべきだと考えているのである。その点を明らかにする講演が、先頃SEC企業金融局のウィリアム・ヒンマン局長によって行われた(注3)。

トークン発行へのHowey基準の適用

ICOで発行されるトークンなどのデジタル資産が有価証券だと判断される場合があるというSECの考え方は、1946年の連邦最高裁判所判決が示した、いわゆるHowey基準に由来する。すなわち、連邦最高裁は、①資金の出資、②共同事業、③収益の期待、④収益獲得がもっぱら他者の努力によること、の4つの要件が満たされる場合には、連邦証券法上の規制を受ける有価証券の一類型としての投資契約(investment contract)に該当するとしたのである。

こうした判断枠組みを用いながらSECは、これまでに行われてきたほとんどのICOは有価証券の募集に該当すると指摘してきた。しかし、今回の講演でヒンマン局長は、SECがそうした見解を示してきたからといって、SECはいわゆる仮想通貨やトークンそれ自体が、常に有価証券であると判断しているわけではないと述べる。それはHowey事件で果樹園への投資の勧誘が投資契約の募集だと判断されたからといって、果樹園そのものが常に有価証券であるわけではないのと同じことだというのである。

この点についてヒンマン氏は、有価証券の販売(募集)が行われたのかどうかを判断する上で中心となるのは、どのような形で販売がなされたか、また、購入者がどのような合理的な期待を有していたかであると述べる。こうした考え方を裏付ける判例として、同氏は、銀行による支払保証がなされた譲渡性預金証書(CD)が法律で明示的に有価証券規制の適用を除外されている(1933年証券法3条(a)項(2))にもかかわらず、CDをリパッケージして流通可能性や金利変動による利益獲得の期待される投資商品に仕立てた場合には、有価証券である投資契約に該当し得ると判示したGary Plastic 事件第二巡回区連邦控訴裁判所判決を引用する(注4)。

ヒンマン氏は、仮想通貨などのデジタル資産それ自体は単なるコードだが、コードの作成という事業を進める者達が、コードとしての利用者以外の者に対して投資の一部としてそれを販売する場合には、多くの場合には投資契約が成立し、有価証券として規制されることになるとする。そして、それは投資家保護という観点からも合理的だとする。すなわち、証券法の規制の狙いは販売者と投資家との間に生じる情報の非対称性を是正することであり、事業の成否とそれによる収益獲得の可能性がもっぱら投資家以外の者の第三者の努力によって左右される場合には、そうした第三者に関する重要な情報を知ることは、健全な投資判断を下すために必要不可欠だと考えられるのである。

十分に分権化された仮想通貨は有価証券ではない

同時にヒンマン氏は、トークンや仮想通貨が機能するネットワークが、十分に分権化され、トークンや仮想通貨などデジタル資産の取得者からみて、特定の人物やグループだけが当該ネットワークの維持・発展のために必要な管理的あるいは事業上の努力を行うことが期待できないような状況になった場合には、もはやそうしたデジタル資産の取引は、投資契約であるとは言えなくなると述べる。十分に分権化されたネットワークについては、事業としてのそのネットワークの成否を左右する要素は特定の中心的な第三者による努力ということではなくなり、投資家に必要な情報を提供すべき発行者や販売者というものを特定することも不可能になるというのである。

その上でヒンマン氏は、現在のビットコインが機能しているネットワークは、十分に分権的で、その機能のために努力する者を特定することができない状態になっていると指摘する。そしてイーサリアム・ネットワーク上の仮想通貨であるイーサリアム(あるいはイーサ Ether)についても、2014年7月にイーサリアム財団がイーサリアムの販売によって31,000BTCを調達した行為をどのように評価するかという点はさておき、現在行われているイーサリアムの売却は、有価証券の取引には該当しないと述べる。トークンなどのデジタル資産が有価証券に該当するのかどうかという判断は、静的なものではなく、判断の対象とされるトークンなどの物に厳密に内在する性質のものでもないというのである。

利用可能性が高いだけでは有価証券性は否定されない

他方、ヒンマン氏は、”utility token” などと名付けることで、特定のトークンなどデジタル資産の一般的な利用可能性を強調したとしても、それだけで当該トークンの有価証券性が否定されることにはならないとも指摘する。確かに、一般には、消費する目的で何かを購入する場合、購入された物は有価証券とはならないが、消費できるような物であっても販売のやり方次第では有価証券になり得るというのである。

具体例としては、オレンジという果物を栽培する果樹園への投資が検討の対象となったHowey事件とともに、スコッチ・ウィスキーの熟成とブレンド作業のための資金調達をウィスキー倉庫に対する持分証書(whisky warehouse receipt)という形で販売した事例が挙げられる(注5)。後者のウィスキー投資のケースでは、投資家は倉庫を保有する蒸留所やそこのブレンダーといった第三者の努力によって出資が利益を生むことを期待していたのであって、製造されたウィスキーを全て自ら消費するために資金を拠出したわけではなかったというのである。

個別の事案に即した対応が重要

こうした議論を展開したヒンマン氏は、SECとしてはICOを実施しようとする者やその顧問弁護士等からの相談や問い合わせに積極的に応じるとし、予定されている行為の内容次第では、有価証券には該当しないという趣旨のノー・アクション・レターを発給するといったより公式の手続を進めることもあり得ると述べる。

この点に関連して、ヒンマン氏は、最近増えている具体的な問い合わせの例として、SAFT(Simple Agreement for Future Tokens)を挙げる。これは適格投資家(accredited investor)向け私募に関するセーフハーバー・ルールであるSEC規則レギュレーションDに依拠しながらトークン発行を行うことで、仮にトークンが有価証券だとしてもSEC登録の義務が生じないようにするという手法である。『日本経済新聞』でも2018年に入って、こうした形でのトークン発行が急増していると報じられている(5月9日付朝刊7面)。

同氏は、SAFTは合法か、適切かといった抽象的な議論をすることは生産的でなく、個別の事案の事実関係に基づいて証券法上の位置付けが判断されるべきだと強調する。その上で、今回の講演で示した当初は有価証券として募集されたトークンが将来的に有価証券とは言えないものになり得るという考え方に照らせば、現在行われているSAFTの中には、将来、有価証券の転売とはみなされず、SEC登録を行わないまま流通させることができるトークンの発行が含まれ得る可能性も否定できないと述べている。

日本への示唆

ここで注目されるのは、SECが、最初の販売時には有価証券とされるべきであったデジタル資産が、将来的に有価証券ではない物として使用されるという可能性を肯定しているという事実である。同じ物が、最初の販売時点では有価証券であったのに、その後は有価証券ではなくなるというような柔軟な解釈手法を日本の金融商品取引法にそのまま適用することは困難だろう。とはいえ、そうした柔軟な規制の適用が投資家保護を狙いとする証券法規制の目的に合致しているのであれば、何らかの立法によって、それと実質的に同じような対応を講じることは、日本においても検討されるべきではなかろうか。


(注1)当コラム「仮想通貨は「有価証券」か? ~米国SECによるICOの規制~ 」(2017年10月6日)参照
(注2)当コラム「ICOに対する規制を強める米国SEC 」(2017年12月15日)参照
(注3)William Hinman, "Digital Asset Transactions: When Howey Met Gary (Plastic)", Remarks at the Yahoo Finance All Markets Summit: Crypto.
(注4)Gary Plastic Packaging Corp. v. Merrill Lynch, Pierce, Fenner & Smith, Inc., 756 F. 2d 230 (1985). ヒンマン局長は、今回の講演をHowey基準とGaryPlastic判決の射程について論じるという意味で、「ハウイーがギャリー(プラスティック)に出会った時」と題したのである。
(注5)Investment in Interests in Whisky, SEC Release No. 33-5451, January 7, 1974, 1974 SEC LEXIS 3580.

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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