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人民元安誘導は諸刃の剣

2018年06月28日

人民元安傾向に拍車がかかる

人民元が対ドルで大幅に下落し、年初来の安値を更新した。足もとでは1ドル6.62程度と昨年12月末の水準に達している。年初の人民元高傾向から人民元安傾向に転じたのは4月後半以降のことである。その背景にあったのは、中国景気の減速懸念であった。5月までの数字を見ると、1~5月の固定資産投資は前年同期比6.1%と、統計で遡れる1995年以降最低だった。中国当局のデレバレッジ(債務削減)方針を受けて、地方政府がインフラ投資を抑制していることなどが背景にあろう。また5月の小売売上高は前年同月比8.5%増と、伸び率は2003年6月以来15年ぶりの低さとなった。

さらに6月に入ると、人民元安傾向に拍車がかかった。そのきっかけは、米中貿易摩擦の激化と米中で逆方向に動いた金融政策だった。6月13日に米連邦準備制度理事会(FRB)が0.25%の政策金利引き上げを決める一方、中国人民銀行(中央銀行)は24日に、市中銀行の預金準備率の引き下げを決めた。米国との貿易摩擦が中国経済に与える悪影響に配慮した措置だ。更にそうした中国の金融緩和措置によって人民元安が進むことは容易に想定されていたことを踏まえれば、景気サポートのために人民元安を容認する意図があったことも考えられる。更に中国人民銀行が足もとで設定している対米ドルでの人民元基準値は、市場実勢に比べて人民元安水準であり、人民元安に誘導している可能性も考えられるところだ。

米国への対抗策としての人民元安誘導は諸刃の剣

中国当局が意識して人民元安誘導をしているとすれば、それは国内景気のサポートにとどまらず、米国に対する報復措置という側面も持つのだろう。しかしこうした政策は、更なる金融市場の混乱を引き起こすリスクを孕んでいる。この措置に対して米国が中国の人民元安誘導を強く批判するとともに、ドル安志向を強める場合には、その影響は他国にも波及し、日本も円高リスクに直面する。さらにドル安による海外資金の流入減速が意識されれば、それは米国の債券、株式市場にも調整圧力となり、特に米国の長期金利を大幅に上昇させれば、世界規模での市場の調整の引き金ともなりかねない。

他方で、人民元安誘導は、中国側にとっても大きなリスクを孕んだ戦略である。上記のように米国として世界の長期金利の上昇を促すことになれば、それは既に足もとで増加している中国企業の社債のデフォルト(債務不履行)を加速させよう。更に、2015年の人民元切り下げ後に生じたように、人民元安観測が海外への資金逃避を促し、相乗的なメカニズムが働くもとで、人民元安に歯止めが掛からなくなってしまうリスクもある。

現時点では資金逃避の動きは明確に見られないが、そうした事態が再燃する可能性にも注意が必要だろう。このように、人民元安誘導は中国にとっていわば諸刃の剣である。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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