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米政府による中国企業投資制限の危うさ

2018年06月27日

米政府は中国企業からの投資制限を検討

米中間で激化する貿易問題は、単純に両国間の貿易不均衡の問題にとどまるものではない。先端産業を巡る両国間の覇権争いが底流にある。それをより鮮明にしたのが、6月24日の報道によって明らかにされた、米政府による中国企業・資本の投資制限等の導入だ。具体的には、中国企業・資本による米国ハイテク企業への投資制限と、米国企業による中国へのハイテク製品の輸出制限だ。米政府は6月29日(金)にその原案を発表し、速やかに実行に移す考えだ。政策実施までには、産業界からの意見を聞くという。

米国が、中国へのハイテク技術流出の警戒感を強めたきっかけは、2015年に中国政府が公表した「Made in China(中国製造)2025」だ。ハイテク10分野で中国が2025年までに世界のリーダーとなることが目標に据えられている。その中にはコンピュータ、航空宇宙、電気自動車(EV)、バイオテクノロジーなどが含まれている(注1)。

各米メディアは、この投資制限を中国企業への措置として報道したが、ムニューシン財務長官は25日に、これは中国に特定したものではなく米国の技術を盗もうとするすべての国が対象になると説明し、報道を偽ニュースと非難した。しかしこの説明は金融市場に、投資制限の対象が世界全体に広がるとの懸念を煽り、25日の米国での株価急落に繋がった。この事態を受けてナバロ大統領補佐官は、投資制限については中国以外の企業に規制をかけることが政権の主眼ではないことを強調し、慌てて市場の懸念払しょくに動いた。

中国の経済侵略を批判する米政府の報告書

この投資制限・輸出規制案は、突然出てきたものではない。トランプ大統領は5月に、米国の「産業的に重要な技術(industrially significant technology)」を獲得する中国企業に対し新たな投資制限・輸出規制案を6月30日までに報告するよう財務省に指示していた。この点からも、今回の措置が中国を標的にしていることは明らかだ。

さらにトランプ政権は6月19日に、中国の貿易慣行を批判する報告書を発表し、中国政府が組織的な経済侵略作戦を展開していると指摘していた。同報告書は、一連の制裁措置を正当化するためにナバロ大統領補佐官が中心となってまとめたものだ。「米国と世界の技術・知的財産を脅かす中国の経済侵略」と題した65ページにわたる報告書は、既に発表ないし検討されている貿易・投資制限をまとめて記述したものだ(注2)。他方、報告書の狙いは、中国が組織的にさまざまな政策を用いて「至宝とも言える米国の技術・知的財産を手に入れようとしている」、という米政府の主張の大きな骨格を提示することだという。

さらに報告書は中国の「経済侵略」を5つの大きな分野に分けて指摘している。国内のメーカー・生産業者のための国内市場保護、天然資源の支配権確保、ハイテク産業における優位性の追求などだ。そして、サイバー攻撃による知的財産の窃盗や、主に中国でしか手に入らない主要原材料に対する外資のアクセス禁止など、中国政府がこれらの目標を達成するために導入した50余りの政策を挙げている。

いかにも対中強硬路線を主導してきたナバロ大統領補佐官がまとめたものらしく、対中批判色が極めて強い内容となっている。これが、中国企業・資本に対する今回の投資制限・輸出規制のベースにある米政府の考えを示しているのだろう。

米国の安全保障上の脅威への対応との位置づけ

米国が多くの国に対して鉄鋼・アルミニウムに追加関税を課した際に、米国の安全保障を脅かしていることを理由にしてその根拠としたのは、米国1962年通商拡大法232条の発動であった。今回も米国の安全保障上の脅威を理由に、中国に対して投資・輸出制限を課そうとしているが、その根拠とされるのは、「国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act of 1997)」となるようだ。これが適用されたのは、多くは2001年の同時多発テロ事件以降のテロ関連国への経済制裁であった。これを中国への投資・輸出規制に適用することには大いに違和感があるが、まさに米政府のなりふり構わずの姿勢がここに表れていると言えるだろう。

中国の対外投資は既に急減している

中国からの対外直接投資は、米国の投資規制を待つまでもなく、既に急減している。これは、中国企業の海外投資の拡大に伴う企業債務の拡大、中国の銀行融資拡大を抑制する、中国政府の政策の影響である。またこれらの措置は、人民元安対策という側面も持つものだ。

中国当局は、2016年11月に1件500万ドル以上の海外買収に当局の事前審査を義務付けた。これを受けて、海外企業の買収の勢いは一気に減じ始めたのである。さらに2017年6月になると中国銀行監督委員会は、海外直接投資を拡大させている中国企業に対して銀行が過剰な融資や社債引き受けなどをしていないか、点検していると報じられた。

市場調査会社のローディアム・グループによると、2018年上期の中国企業による対米直接投資額は18億ドルと、前年同期から92%の大幅減少となっている。

6月29日の原案内容に注目

このように中国から対米直接投資額は既に急減しており、米政府の投資規制の影響は、実質的には余り大きくない可能性もある。この点から、6月29日に公表される原案では、規制の詳細を見極めたいところだ。

また原案での他の注目点は、投資制限の対象となる中国企業・資本の出資比率の下限である。現時点では25%とされているが、最終的にはこれよりも低くなる、つまりより強化される可能性もあるという。

また、規制対象となる中国企業・資本にベンチャーキャピタルなどが含まれるのかどうかも注目される。米国でのITスタートアップ企業は、中国資本が入ったベンチャーキャピタルの資金に多く支えられているとされる。これが規制の対象となれば、米国でのIT産業の発展にも大きな打撃となりかねない。

こうした点も含め、原案公表後の米企業の反応も重要な注目点だ。中国に対する投資・輸出規制によって、米企業が大きな打撃を受けるという意見が相次ぐ場合には、米政府はこの規制をトーンダウンせざるを得なくなろう。

グローバル・バリューチェーンが拡大するもとでは、中国企業に対する投資・輸出規制が、ブーメラン効果のように、米企業の活動や米国経済に思わぬ打撃となる可能性があるだろう。おそらく米政府は、それを十分に見極めきれない段階で、多くの制裁措置を検討、発表してきているのだろう。この点に、米国企業・経済にとっても脅威となりかねない米政府の貿易制裁措置の乱発に、大きな危うさを感じざるを得ない。


(注1)"Trump to Curb U.S. Tech Deals by Chinese", Wall Street Journal, June 25, 2018
(注2)「米政府、中国の「経済侵略」批判する報告書を発表」、ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース、2018年6月20日

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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