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対米貿易紛争下での中国社債市場の環境悪化

2018年06月26日

中国で社債のデフォルトが急増

中国で社債発行の中止や延期が相次いでいる。報道(経済参考報)によれば、年初から6月中旬までに総数363本、総額規模で2,270億人民元(約3.9兆円)相当が中止・延期されたという。特に4月以降、社債発行の中止・延期は目立って増加している。

その背景には、低格付社債を中心に信用リスクが懸念されていることがある。実際のところ、社債のデフォルト(債務不履行)は増えてきている。フィッチ・レーティングスによれば、年初から6月上旬までに12社の発行体がデフォルトに陥った。2017年年間ではデフォルトに陥った発行体は18だったことから、増加ペースは明らかに高まっている。

政府の構造改革の影響が少なくない

デフォルトの増加をもたらす主な要因は3つ考えられる。第1が中国経済の鈍化、第2が世界的な金利上昇、第3が政府による債務削減(ディレバレッジ)の取り組みの影響だ。政府の方針を受けて、銀行が社債保有を一段と減らす傾向を強めている。さらに銀行は自行の社債保有を減らすだけでなく、借入金で社債を買い入れる企業向けの融資を減らしており、これも社債のデフォルトを促している。個人や投資信託などが広く社債を保有する米国などとは異なり、中国では銀行や銀行系の投資会社が保有する社債が多い。

社債のデフォルトは、シャドーバンキング(影の銀行)からの資金調達に頼る傾向が強い不動産開発会社や地方政府の資金調達事業体「融資平台」で今後増える可能性が指摘されている。

デフォルト増加は金融システムリスクに

政府は社債のデフォルトは、ある程度容認している面がある。しかし今後デフォルトが増加すれば、それを保有する中小銀行の財務リスクが高まる。さらに理財商品で運用されている社債のデフォルトが増えると、理財商品の運用パフォーマンスが低下して個人投資家が理財商品から資金を引き上げ、それが理財商品の破綻にも繋がり得る。投資会社の理財商品には、銀行が資金の出し手、投資先、(暗黙の)保証先として深く関わっており、その破綻は銀行システム不安に直結する可能性もあるだろう。

不動産開発分野で社債の償還が2020年にかけて急増

特に注意が必要な分野が不動産開発である。この分野の社債の償還は2020年にかけて急増する。国際決済銀行(BIS)によれば、同分野で満期を迎える社債の金額は、2018年の144.6億ドルから2019年には295.0億ドル、2020年には377.9億ドルと急増する。このタイミングで社債の再発行ができなければ、デフォルトが多発することになるだろう。2020年に償還を迎える同分野の社債のうち、およそ3分の1が外貨建て社債である。そのデフォルトは、海外投資家の損失を通じて、グローバルな金融市場のリスクともなろう。

米国との貿易摩擦発生が政府の構造改革の継続に逆風

こうした脆弱な社債市場に新たな脅威となっているのが、米国との貿易摩擦問題だ。それが先行きの景気悪化観測から、社債の信用リスクを一段と高めている。米国が中国から輸入される500億ドルの追加関税実施を発表した後、さらに2,000億ドルの輸入品、場合によっては4,000億ドルの輸入品に制裁関税を課す可能性を米政府が示唆し、金融市場が動揺した6月19日には、中国人民銀行(中央銀行)は異例の大規模流動性供給を行った。また、6月24日には、市中銀行の預金準備率を0.5%引き下げると発表した。これらは、景気悪化への懸念を強める国内金融市場の安定を狙ったものである。

今後も米国との貿易摩擦が続き、中国経済への悪影響が懸念され続ければ、金融政策は緩和的姿勢を強めることが求められ、また公共投資の拡大など、財政支援も検討されよう。しかしその場合には、企業の債務を削減し、国内金融リスクを削減していくという従来からの政策方針とは逆行してしまう。

悪化した対米貿易摩擦問題は、構造改革を通じた金融リスクの抑制と景気配慮という2つの課題を睨んで、中国政府の対応を俄かに難しくさせている。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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