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米中貿易戦争の敗者は米国

2018年06月22日

企業ベースで考えれば米中間の貿易は概ね均衡

中国から米国への財の輸出総額は2017年に5,050億ドル、一方、米国から中国への財の輸出総額は1,300億ドルであり、その結果、米国の対中国貿易赤字額は3,750億ドルとなった。中国からの輸出額は米国からの輸出額の4倍近くにも達している。この数字から、米中が報復関税の応酬の状態になったとしてもより被害を大きく受けるのは中国だ、との考えが米国側の強気の交渉姿勢を支えている面がある。しかしこれは単純すぎる考え方だ。

多くの米国企業が中国国内で生産活動を行っており、中国の関税率引き上げによって、そうした米国企業が中国外から調達する部品や材料のコストが高まれば、生産活動、収益環境に打撃となる。また米中貿易摩擦で中国の内需が悪化すれば、そうした米国企業も打撃を受ける。

2015年に中国にある米国企業が中国の消費者向けに販売した総額は、2,219億ドルに達している(注1)。他方で、中国企業の米国での生産、販売活動は無視できるほど小さい。この数字を輸出と見なした場合には、米中間の貿易収支は概ね均衡していることになる。

中国で米国製品不買運動が起こる可能性も

さらに中国人観光客が米国国内で消費すると、それは米国のGDP統計で輸出等に計上されるが、こうした両国間での旅行収支も仮に貿易収支に加えた場合、米国の対中貿易赤字は一気に貿易黒字となるだろう。そして2国間の貿易紛争は、米国への中国人観光客を減少させる。

また中国には、GM、フォード、ナイキ、スターバックス等の米国企業が活動しているが、両国が貿易戦争の様相となれば、先行きの活動の不確実性が一気に高まるだろう。まず、中国政府がそうした米国企業に何らかの報復的な規制措置を講じてくる可能性がある。さらにそれ以上に注意したいのが、中国人の間で反米感情が高まると、米国企業の製品に対する広範囲な不買運動へと発展することは想像に難くない。それが米国企業に与える打撃は相当なものになるのではないか。

消費財が中国からの輸入品の上位に

米政府は6月15日、中国の知的財産権侵害への制裁措置として500億ドル分の中国製品に、25%の追加関税を課す計画と発表した。7月6日に第1弾として340億ドル分の制裁関税を課し、残りは中国側の出方を見て決めるという。さらに中国政府の対応次第では、加えて合計4,000億ドルの輸入品も10%の追加関税の対象とする可能性を米国政府は示唆している。

米国が2017年に中国から輸入した品目を概観すると、最も金額が大きかったのが、携帯電話の704億ドルだった。第2位がコンピューターの455億ドル、第3位が衣料品の364億ドルである。通信機器、コンピューター周辺機器、玩具・スポーツ用品、家具などが、それらに続いている。このように、中国からの輸入品の上位は、米国の消費者が直接購入する消費財で占められているのである。

追加関税の範囲を広げれば、米国消費者に大きな打撃も

しかしこうした品目を追加関税の対象とすれば、米国消費者の生活を圧迫し、政治的に大きな失点となる可能性がある。そこで米国政府は、7月6日に予定されている追加関税導入の第1弾では、消費財を対象から極力外している。対象品目のうち、消費財の比率はわずかに1%で、52%が資本財、43%が中間財だった(注2)。

しかし今後、米国が追加関税の範囲を広げていけば、中国から輸入される消費財も対象に多く含まれるようになることは必至である。今年1月には、米国は洗濯機に制裁関税を導入した。その結果、国内での洗濯機の価格は急騰し、過去3ヵ月では17%にも達している。洗濯機よりも購入頻度が高い消費財に追加関税が課せられる場合には、消費活動への打撃はより大きくなろう。

以上の論点を踏まえると、米中貿易戦争の敗者は中国、とのトランプ政権の認識は明らかに誤りである。トランプ政権が、米国経済が被る損失をいずれ冷静に評価し始める、あるいは米国消費者からの不評を受ける、ことなどを契機に、米中間の貿易紛争でトランプ政権が落ち着きどころを探り出す、というのが考えられる一つのシナリオであろう。


(注1)"Increased tariffs will raise risks for US companies in China", Financial Times, June 21, 2018
(注2)"Trump’s Latest Tariffs Likely to Hit Consumers Directly", Financial Times, June 21, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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