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資産買入れ停止後のECBの政策見通しとFRBの出口戦略との比較

2018年06月19日

ECBが資産購入プログラム終了へ

欧州中央銀行(ECB)は6月14日の政策理事会で、2018年9月まで300億ユーロとしている月間純資産買入れ額を、10月以降は150億ユーロに減額し、さらに12月末で純資産買入れ(資産購入プログラム、APP)を終了することを決定した。

またECBはこの決定に合わせて政策金利の先行きの見通し、いわゆるフォワードガイダンスも見直した。「資産購入プログラム終了後もかなりの期間、現在の金利水準を維持する」との前回までの表現は、「少なくとも2019年夏までは、政策金利を据え置く」との表現に改められた。

フォワードガイダンスの欧米比較

政策金利の見通しに関する表現の修正は、前回の理事会からの経済、金融情勢の変化を映して、将来の政策金利の変更に関するECBの姿勢がより慎重な方向に変化したことを示すもの、とは考えるべきではないだろう。資産購入プログラム終了という決定を、仮にECBの正常化策が加速する兆しと金融市場が受け止め、政策金利も早期に引き上げられるとの観測を強めれば、先行きの短期金利見通しの上方修正と、資産購入プログラム終了による金利押し下げ効果の剥落の双方の影響が重なることで、長期金利が大幅に上昇する可能性がある。ECBはこうしたリスクを抑えるために、「少なくとも2019年夏までは、政策金利を据え置く」と時期を特定する形で、フォワードガイダンスを強化したのである。従って、「2019年夏まで」という時期を選んだことに特別強い理由がある訳ではないだろう。

ところで米連邦準備制度理事会(FRB)が2014年10月に資産購入の終了を決定した際、フォワードガイダンスには「経済の進展が予想以上に速いならば、現時点で予想されるよりも早い時期に利上げを行う可能性が高い」との文言を付け加えた。金融市場の利上げ期待をむしろ高めるようなこうしたFRBのフォワードガイダンスと比べると、今回のECBは市場の利上げ観測を抑えることに重きを置いたより慎重なものとなった。

資産買入れ策の正常化での欧米比較

ところで、各主要中央銀行が実施している、金利操作と資産買入れ策を組み合わせた非伝統的金融政策を、正常化させていく手続きについては、何らかの理論が確立されている訳ではない。そのなかで今回ECBが、純資産買入れ策をまず終了し、資産残高を一定に維持したうえ、一定期間後に政策金利の引き上げを目指しているのは、先行する米国の例に倣ったものだ。米国で実際にとられた正常化の手続きが最適であったかどうかは検証できないが、それ以外に前例はなく、一方で米国の正常化策は今のところは円滑に進められてきていることから、ECBはそのような選択をしたのであろう。

FRBは2014年10月に資産購入を停止し、保有資産の残高を一定に維持した後、2015年12月に政策金利の引き上げを開始した。この間、1年2ヵ月程度が経過した。「少なくとも2019年夏までは、政策金利を据え置く」というECBのフォワードガイダンスは、こうしたFRBの前例を意識したのかもしれない。

しかしECBは、主要政策金利のうち預金ファシリティ金利を-0.4%、主要リファイナンス金利でも0.0%としている。これは、FRBが利上げに転じた際の政策金利水準よりもかなり低く、より金融緩和が進んだ状態にある。またマイナス金利政策が、金融機関の収益を悪化させるという弊害もより表面化している。この点を踏まえれば、今後の経済・金融環境次第であるとはいえ、ECBが保有資産の残高を一定に維持した後に政策金利を引き上げまでに要する時間は、FRBの1年2ヵ月程度よりも短くなると考えるのが自然ではないか。ECBの政策金利引き上げが2020年までずれ込むと考えるのは妥当ではないと思われ、政策金利引き上げが、2019年10月末に任期を迎えるドラギ総裁の最後の大きな仕事となる可能性も十分にあるのではないか。

資産残高一定後の債券平均残存期間の変化に注目

ところで、中央銀行が資産買入れ策を正常化させていく際に、多くの人は残高の変化にのみ目を奪われがちである。しかし残高の変化と並んで重要なのは、保有する債券の平均残存期間の変化である。同じ額だけ債券を保有していても、平均残存期間が短い方が、長めの金利を押し下げてイールドカーブをフラット化させる効果が弱く、その分緩和効果が小さいと考えられる。つまり中央銀行が保有する債券の残高が一定のもとで、満期を迎えた債券を平均よりも短い残存期間の債券へと置き換える再投資を行っていけば、保有する債券の平均残存期間は短くなり、そのもとで正常化策がより進められることになる。実際FRBも、2014年10月に保有資産残高を一定に維持してから、2017年10月に資産残高の削減を始めるまでに、財務省証券の平均残存期間を大幅に縮小させた。これは、金融緩和効果を低下させる正常化策というだけでなく、後には、償還のペースを高めることで、保有する財務省証券を削減していく正常化プロセスをより円滑化させるというメリットもある。

他方、ECBの資産買入れ策では、①各中央銀行がばらばらに買入れを行う、②資産買入れ額に発行体ごと、銘柄ごとに制約がある、③資産買入れ金利に下限がある等、FRBと比べてかなり自由度が低い。そのためFRBのように、多くの人が、気が付かないうちにこっそりと、保有する債券の平均残存期間を短くすることで、正常化を進めていくことは難しいだろう。従って、ECBの政策正常化過程では、短期金利の引き上げがより重要性を持つと考えることができるだろう。

以上の議論を踏まえると、ECBの政策金利は、市場のコンセンサスよりも早い時期に、そしてより速いペースで引き上げられていく可能性があると考えられる。もちろん、現在視野に入っている懸念材料、つまりイタリア政治情勢、対米貿易摩擦などが、ユーロ圏の経済・金融環境を顕著に悪化させることがない、というのがその前提となる。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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