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財政規律の緩みを映す骨太の方針と金融緩和策の影響

2018年06月15日

消費税率引き上げは明記されたが

2018年6月15日中に政府は「経済財政運営と改革の基本方針2018」、いわゆる「骨太の方針」を正式に閣議決定する予定だ。事前にその内容は公表されており、今回の骨太の方針には、2019年10月の消費税率引き上げが明記された。前回(2014年4月)の消費税率引き上げ実施後に予定されていた消費税率引き上げは、現政権の下で2回先送りされた。しかし経済情勢が今後よほど悪化することがない限り3回目の先送りはしないという政権の意志が、今回の骨太の方針で確認できた。

しかし、このように消費税率引き上げを予定通りに実施する考えを表明することが、財政健全化に向けた政権の強い意志を裏付けるものとは必ずしも解釈できないのではないか。消費税率引き上げ実施を明記し、表面的には財政健全化の姿勢を対外的にアピールできるということが、歳出抑制を通じた財政再建の姿勢の後退をむしろ許してしまっている面があるのではないか。それこそが、今回の骨太の方針の最大の注目点と言えるだろう。

消費増税反動減対策は本当に妥当か

政府は、消費税率引き上げ後の反動減を強く警戒している。その反動減を緩和する目的で、自動車や住宅の購入支援策を税制・予算の面から検討することが、骨太の方針に記された。しかしこうした施策が、消費税率引き上げに伴う景気の振幅の縮小にどの程度貢献するか実際には不確実であるうえ、それらは消費税率引き上げの財政赤字削減効果を減少させてしまう。それでは、何のために消費税率を引き上げるのかが分からなくなってしまうのではないか。

また、消費税率引き上げ後の反動減対策として2019年度当初予算に経済対策が盛り込まれれば、予算規模は当初予算として初めて100兆円を超える可能性が高い。その結果新規国債発行額は増加し、新規国債発行額を抑制していくという現政権の従来からの姿勢も後退してしまうことになろう。

プライマリーバランス黒字化の目標は5年先送り

以前より政府は、新たな借金に頼らずに税収でどの程度政策経費を賄えるかを示すプライマリーバランス(基礎的財政収支)を、2020年度に黒字化することを目指してきた。

しかし2017年度時点でなおプライマリーバランスは18.5兆円、GDP比3.4%程度の巨額な赤字であり、その目標達成はかなり難しい状況であった。そうしたもと、2019年10月の消費税率引き上げで得られる税収の一部を幼児教育無償化などに充てることを昨年決めた時点で、政府は正式に目標年限を先送りする方針を固めた。そして今回の骨太の方針では、新たな年限を2025年度と5年先送りすることを決めたのである。

安倍現政権のもとでプライマリーバランスのGDP比率は年平均0.46%ポイント程度改善してきた(2014年の消費税率引き上げの影響を除く)。この改善ペースが単純に今後も継続されることを前提にして、2025年度の黒字化目標が設定されている。しかし、これはかなり良好な経済環境の下で実現されてきたものであり、今後も維持されることを前提とするのはかなり楽観的であろう。2025年度の黒字化目標達成も、実際には難しいのではないか。

社会保障費抑制目標が消える

今回の骨太の方針で最もサプライズだったのは、社会保障費の増加を抑制する目標が消えてしまったことだ。事前には、財政健全化計画で社会保障にどこまで切り込むかが注目されていたが、実際には数値目標が示されなかったことで、財政健全化路線の後退を最も強く印象付けることとなった。

今年5月には、2040年度の社会保障給付費が190兆円前後に達し2018年度と比べて55%~56%増えるとの政府推計が公表された。骨太の方針では、このような長期の展望に基づいて、社会保障費の抑制に対してどのような具体的な施策がなされるかが注目されていたが、実際には、具体的な施策や具体的な目標は示されなかったのである。

2019年度~2021年度は、社会保障改革の「基盤強化期間」と位置付けられた。しかし2016年度~2018年度には社会保障費の増加を3年間で1.5兆円程度に抑える目標が設定されていたが、今回はそうした数値目標はない。一方で、社会保障費については、「安倍政権のこれまでの歳出改革の取組みを継続する」とのあいまいな表現だけが示された。

終戦時の1945年前後に生まれた日本人は少ないため、公的医療保険の扱いが変わり社会保障費を押し上げることになる75歳を迎える人の数は、2020年、2021年には鈍化する。そのため、2019年度~2021年度の75歳以上の人口の増加率は年平均+1.5%と、それ以前の3年間の年平均+3.3%から大きく鈍化する見通しだ。つまり「基盤強化期間」と位置付ける2019年度~2021年度には、社会保障費の増加ペースは、一時的ではあるが自然に低下するのである。

この点を踏まえて財務省は、2019年度~2021年度の3年間の社会保障費増加額を、2016年度~2018年度よりも少ない1.3兆円程度に抑えるという目標を提案したとされる。また、5月21日の経済財政諮問会議では、民間議員から、「過去3年間の目安(1.5兆円程度)以下とするべきだ」との意見があがったという。しかしこうした意見は最終的には採用されず、政府は以上のような決定をしたのであった。

金融緩和が財政規律を低下させている面も

以上で見てきたように、今回の骨太の方針で最も期待されていた社会保障改革については具体策が示されず、また社会保障費増加を抑える目標設定も見送られた。これらは、消費税率引き上げの反動などを強く懸念する政府が、2019年の参院選、統一地方選を視野に入れて、財政健全化よりも景気重視の姿勢をより鮮明化しているためと解釈できるだろう。しかし本来は、景気情勢が比較的良好な状況であるからこそ、現時点で財政健全化を強く進めておく必要があるのではないか。

また、現政権が財政健全化路線を事実上後退させ、財政拡張的な姿勢を強めている背景には、日本銀行による大規模な国債買入れ策、イールドカーブコントロールが継続していることも影響しているのではないか。日本銀行がそうした異例の金融緩和政策を維持することで、財政規律の緩みが長期金利上昇などの問題を生じさせるリスクが低下していると政府が認識しているとすれば、それは、金融緩和策が政府の財政拡張的な姿勢を助長している、いわば政府に対して誤ったメッセージを発しているということになるのではないか。

ヘリコプターマネー的政策のリスク

こうした点を踏まえると、日本銀行は、財政規律を緩めてしまいかねない誤ったメッセージを政府に送り続けることを回避するためにも、現在の異例の金融緩和の正常化策を進めていくべきであろう。さらに今後国内経済が悪化すれば、政府は国債増発で賄う形で歳出拡大策を実施する可能性が高い。その際には、政策の協調策として、日本銀行に対して国債買入れの拡大を要請するかもしれない。その場合、まさに、ヘリコプターマネー的政策となってしまう。

日本銀行は長期国債買入れの増加ペースを着実に削減してきている。これは、長期国債買入れを限界まで進めてしまうと、国債市場の流動性が極度に低下し、国債市場のボラティリティ(変動率)上昇、ひいては金融市場全体の混乱を生じさせるという政策の副作用に配慮した措置であると考えられる。しかし経済悪化時に、日本銀行が政府からの強い要請のもと長期国債買入れの増加ペースの再拡大を強いられれば、そうした副作用が顕在化してしまうリスクが生じよう。

現在のように景気情勢が良好な時にこそ、政府には財政健全化を進展させることを強く期待したい。他方、日本銀行は、金融政策の限界と副作用を政府に対してしっかりと説明し、経済悪化時に、日本銀行に対して国債買入れ再拡大などの追加緩和措置を安易に要請することがないよう、今のうちから十分な議論を積み重ねておくことが重要なのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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