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FRBのパウエル議長の記者会見-コミュニケーション

2018年06月14日

はじめに

今回(6月)のFOMCにおける25bpの利上げ自体は市場の予想通りであったが、失業率と物価に関する見通しを若干改善させたほか、インフレに対する慎重な見方や緩和的な政策運営に関するフォワードガイダンスを声明文から削除したことは、市場に対してタカ派的な印象を与えた面があったようだ。

景気と物価の見通し

今回改訂された景気や物価の見通しは、パウエル議長が総括したように、前回(3月)の見通しから大きく変わっていない。まず、実質GDP成長率は2018年だけが+2.7%→+2.8%とわずかに上方修正された。失業率も前回(3月)は2018~2020年にかけて3.6%→ 3.5%→3.6%であったのが、今回( 6 月) は3.6%→3.5%→3.5%へわずかに改善された。

PCE インフレ率も前回( 3 月) は2018 ~ 2020 年にかけて+1.9%→+2.0%→+2.1%であったが、今回(6月)は+2.1%→+2.1%→+2.1%へわずかに上方修正された。また、コアPCEインフレ率についても、2018年だけが+1.9%→+2.0%へ改訂されたのに止まった。

FOMCが景気や物価の見通しを前回改訂した3月以降、米国経済には少なくとも基調的には上下双方向に目立った変化はみられなかった。しかも、前回(3月)の時点では、FOMCメンバーも税制改革の効果を相応に織り込んでいたと思われるだけに、今回(6月)の景気や物価の見通しが顕著に変化しなかったことはむしろ自然である。

従って、今回(6月)の記者会見では、この間の経済環境が概ね不変であったのに、FOMCが上記のように(若干ではあるが)物価見通しを引き上げた理由を問う質問も散見された。これに対してパウエル議長は、労働市場のタイト化に伴って賃金が緩やかに上昇していくとの見方には変化がないことを確認した。

一方、一部の記者からは、足許の失業率が3%台に入るなど自然失業率の一段の低下が示唆されるなかで、物価見通しを引き上げることは必ずしも整合的でないとの指摘もみられたが、パウエル議長は自然失業率の推計にはかなりの不確実性を伴う点を強調して、批判には当たらないとの考えを示した。

結局のところ、今回(6月)の声明文(冒頭のパラグラフ)が示唆するように、家計支出が勢いを取り戻すなど、第1四半期における経済活動の停滞が一時的に止まったことは確認されつつある。従って、景気や物価の見通しに関する2018年を中心とする上記の微妙な修正も、米国経済が緩やかな拡大パスに復帰したとの認識を反映したものと理解できる。

政策判断

冒頭に見たように、今回(6月)のFOMCは25bpの利上げを決定した。加えて、2018~2020年にかけての各年末の政策金利の見通しを、前回(3月)の2.1%→2.9%→3.4%から、今回(6月)は2.4%→3.1%→3.4%へ変更した。

つまり、毎回の利上げが25bpだとすると、2018年中の利上げが残り1回弱から2回弱に増えた一方、2019年中については3回強から3回弱に減った訳である。これをいわゆるdot chartの面から前回(3月)と今回(6月)とを比較すると、2018年や2019年についても上方の分布には目立った変化がみられない一方、下方にあったdotが上方に収斂する形で変化したこともわかる。

米国市場にとっても、企業業績などを通じて実体経済の堅調さを体感していただけに、2018年の利上げ回数が4回になったことはサプライズではなかったと思われる。それでも、今回(6月)の声明文の公表やパウエル議長の記者会見(特に前半)に際しては、市場は今回のFOMCのメッセージがhawkishであると受け止めたものとみられる。

その理由は、上に見たようにFOMCが足許の景気や物価に対する自信を強めたことに加えて、今回(6月)の声明文の変更にあるようだ。すなわち、声明文からは、①インフレ動向を慎重に監視するとのコミットメント、②米国経済は緩やかな利上げに即した形で推移するとの見方、を各々示す三つの文が削除された訳である。実際、記者会見ではこうした削除の意味合いを問う質問も少なくなかった。

これに対しパウエル議長は、FOMCとして緩やかな利上げを継続するという基本的アプローチに変化はなく、現実の政策金利が中立的水準に徐々に近づいていることを考慮すると、もはや従来のような表現では不適切との判断により、これらを削除することにしたと説明した。つまり、今回の声明文の削除の意味合いを過大評価しないよう促したのであり、実際、金融市場の上記のような反応も幾分か反転した。

もっとも、パウエル議長も、削除した部分に代る表現について議論を行ったことも認めており、FOMC内でも一括での削除に対する慎重論もあったことが示唆される。この点を、来年1月以降は全てのFOMCの終了後に議長会見を行う方針と考え合わせると、FOMCとして今後の政策運営のパラメーター(タイミングや大きさ)について、若干の柔軟性を確保しようとする意図も窺われる。

このような柔軟性の強化は年初来の議事要旨が示唆してきた、インフレのオーバーシュートによるインフレ期待のアンカーという考え方と決して反しないことにも注意すべきであろう。今回(6月)の記者会見でも一部の記者がオーバーシュート論を質したのに対し、パウエル議長は物価水準目標の採用などは考えておらず、実際のインフレ率が継続的に目標から乖離する場合には政策対応が必要と述べつつも、再びゼロ金利制約に直面した場合に備えてインフレ期待をアンカーさせることは重要であると確認した。

コミュニケーション

パウエル議長は、上記のように来年1月から全てのFOMC後に記者会見を行うと説明したほか、今回(6月)の記者会見の冒頭では、企業や家計向けに平易な表現によって景気や物価の判断と政策運営について説明した。

これは、米国メディアが推測するように、パウエル議長がコミュニケーションの強化に個人的関心を持っていることによるものだけではなかろう。つまり、政策金利が中立水準に近づき、実質でプラスに転じるようになれば、企業や家計の経済活動にも徐々に影響が生じ始めるだけに、FOMCとしては、利上げを継続する正当性をより丁寧に説明する必要が高まる訳である。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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