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米国政策金利に早期にピーク感も

2018年06月13日

注目は政策金利にピーク感が生じる水準

6月12日から米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれている。米国時間の13日には政策金利(FF金利の誘導目標レンジ)が0.25%引き上げられ、1.75%~2.00%とする決定がなされることは、ほぼ確実な情勢だ。

2018年中に政策金利の引き上げ回数が3回になるか4回になるかについては、FOMCの参加者、金融市場ともに見方は大きく分かれている。しかし重要なのは、年内の政策金利の引き上げ回数ではなく、政策金利がどの辺りの水準でピークを付けるか、そこに向けて政策金利の引き上げペースがどのタイミングで鈍化し始めるのか、といった点である。今回のFOMCでの最大の注目点は、そうした金融市場の関心に応えるような材料が示されるか否かである。

5月のFOMC議事録は政策正常化完了が近いとの認識を示す

FOMCのメンバーは、政策金利が中立水準に近付いているとの認識を共有し始めていると見られる。5月のFOMC議事録では、利上げの継続によってFF金利が「間もなく長期的に正常とみる水準以上」になる可能性があるとの見方が示された。それとともに、「(FF金利が)当面、長期的に主流とみられる水準を割り込む」という従来用いてきた表現、つまりフォワードガイダンスを声明文から外す、あるいは修正することが近く適切になり得る、との指摘もなされた。

今回のFOMCでも、そうしたFF金利の水準評価について議論されることは間違いなく、5月のFOMCで既に議論されたように、FOMC声明文でフォワードガイダンスが外される可能性もあるだろう。その場合には、FF金利の頭打ち感が金融市場に一気に意識され、長期金利の低下やドル安傾向が生じる可能性も考えられるところだ。

政策金利の水準の評価が重要

経済、物価環境に変化がなければ、FF金利の引き上げペースは変わらないと考えるのは誤りである。当局者は政策金利の水準を強く意識するためだ。金融政策の効果は、経済(あるいは需給ギャップ)に中立的な実質金利(インフレ期待を除いた名目金利)である自然利子率と実際の実質金利との差から生じる、というのが一般的な考え方である。そのため、現在の政策金利が金融緩和効果を生じさせているのか、金融引き締め効果を生じさせているのか、あるいはどちらでもない中立的な状況であるのか、その認識によって金融政策スタンスは大きく影響を受ける。

5月のFOMCで示されたFF金利の長期(longer-run)の見通しは、参加者の中心的傾向で2.8%~3.0%、その中心値は2.9%であった。物価上昇率の長期見通しは2.0%であることから、それを差し引いた実質FF金利は0.9%となり、これがFOMCの参加者が想定する自然利子率の均衡水準と考えることができる。

今回1.75%~2.00%までFF金利が引上げられても、FF金利の長期見通し、いわば均衡水準である2.9%まではまだ距離があり、この点を踏まえると政策金利引き上げペースの頭打ちを意識するタイミングとしてはまだ早いようにも感じられる。しかし、それは必ずしも正しくないだろう。

現時点でのFF金利の中立水準はどの程度か?

自然利子率は10年前のグローバル金融危機(リーマンショック)によって、一時的にマイナスの領域に陥ったと広く考えられている。その後は、緩やかに上昇している途上にある。従って、FF金利の長期見通しで示された2.9%というのは、現時点での中立的な政策金利の水準ではなく、将来の中立的な政策金利の水準なのである。非常に長期であれば、自然利子率は潜在成長率と一致すると考えられることから、その水準は1.5%~2.0%程度、2%の予想物価上昇率を足すと3.5%~4.0%となる。

それでは、現時点での中立的な政策金利とFOMCメンバーが考える水準は果たしてどの程度か?少し前までは、FOMCの中での自然利子率のコンセンサスは0%程度と言われていた。セントルイス連銀ブラード総裁のように、自然利子率はマイナスであり、現在のFF金利は既に引き締めの領域に入っていると考える向きもあるが、現時点での自然利子率のコンセンサスは0%~0.5%程度ではないかと考えられる。この場合、中立的なFF金利の水準は2.0%~2.5%となり、実際のFF金利は、既にこの水準にかなり接近していることになる。

この点を踏まえると、賃金・物価に今後加速感が生じなければ、来年を待たずに年内にも、金融市場でFF金利にピーク感が生じることも考えられる。

イールドカーブの変化にも注目

FF金利が中立水準に接近することに加えて、イールドカーブのフラット化も、政策金利の引き上げをより慎重にさせる可能性があるだろう。例えば財務省証券10年物金利と2年物金利が逆転、いわゆる逆イールドが生じると、過去の経験則から、それは米国経済が先行き後退局面に陥ることを示唆するものと考えられている。FOMC内でも逆イールド化を警戒する向きは少なくなく、セントルイス連銀のバラード総裁、ニューヨーク連銀のダドリー総裁、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁も、逆イールド化を景気後退の兆候として警戒している。

現在0.4%台にある財務省証券10年物金利と2年物金利の金利差は、年内にもゼロに接近、あるいは逆転する可能性がある。そうなれば、政策金利引き上げにより慎重な意見がFOMC内で強まるだろう。

ただし全く逆に、長期金利が上昇してイールドカーブがスティープ化する局面では、新興市場から米国市場への資金の逆流が促され、新興市場及び経済を混乱させる可能性もあるだろう。その場合にも、米国は政策金利のさらなる引き上げに慎重にならざるを得なくなる。実は、イールドカーブがフラット化しても、スティープ化しても、米国は政策金利のさらなる引き上げに慎重にならざるえなくなる可能性がある。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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