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事実上の決裂に近いG7サミットと日本の微妙な立ち位置

2018年06月11日

G7では貿易問題を巡って激しい対立

カナダケベック州で開かれ6月9日に閉会したG7サミット・先進7カ国首脳会議では、12日に開かれる米朝首脳会談について各国が米政府を支持することを確認した。

一方貿易問題を巡っては、米国と他国との間で激しい対立が生じ、それが解消しないまま閉会を迎えることとなった。米国以外の国々が団結しても、米国の保護貿易主義的な政策を翻意させることはできなかった。これは、先行きの貿易問題の見通しをより厳しくするとともに、G7サミットの有効性、意義についても疑問を投げかける結果となった。

安倍首相はG7サミット閉幕後の記者会見で、貿易をめぐって激しい意見のやりとりがあったと述べ、米国の保護主義政策が焦点となったことを認めた。他方、一時は危ぶまれた首脳宣言がなんとか採択され、「保護主義と闘い続ける」と明記されたことの重要性を強調した。

トランプ大統領にG7サミット軽視との批判も

しかしトランプ大統領は、貿易問題を巡るG7サミットでの議論を一方的に打ち切るかのように、サミット2日目後半の討議に参加せず、米朝首脳会談が開かれるシンガポールに向けて出発した。これをG7サミット軽視と批判する向きもある。

北朝鮮との間で歴史的な合意を得て米国内での政治的な得点を挙げることを、G7サミットや他の先進国との協議よりも優先する立ち振る舞いとも映った。またトランプ大統領は、2国間での取引(ディール)を得意とする一方、多国間での交渉は苦手であることも背景にあるのかもしれない。

G7サミット閉幕後により明確に露呈された対立

米国と他国との対立は、G7サミット閉幕後により明確に露呈されるという異例の展開となった。9日にトランプ米大統領はツイッターに、「G7首脳宣言を承認しないよう米代表団に指示した」と書き込んだ。G7首脳が一度採択した首脳宣言に反対するのは極めて異例の事態である。これは議長国であるカナダのトルドー首相が記者会見で、米国の鉄鋼輸入制限措置を強く非難したことへの反発だったと見られる。このことは、米国とカナダ、メキシコとの間での北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉にも悪影響を与えるだろう。

ただし、G7サミット閉幕後に米国の保護貿易主義的な政策姿勢を明確に非難したのは、トルドー首相だけではない。鉄鋼、アルミニウムに対する追加関税について、メイ英首相は欧州連合(EU)が対抗措置を取るだろうと述べた。またメルケル独首相も貿易は国際ルールに基づくべきだと語り、米国の措置を批判した。

微妙な日本の立ち位置

しかしながら日本だけは、米国の貿易政策を批判しつつも強く非難することは控え、G7でも米国と他国とを仲介する姿勢を見せた。安倍首相はサミットで、「G7が貿易制限措置の応酬に明け暮れていることはどの国の利益にもならず、不公正な貿易慣行を続ける国を利することになりかねない」、「その国が国有企業優遇や知的財産侵害で市場をゆがめている」と指摘した。その国とは中国のことである。

安倍首相は、貿易慣行などを巡って米国の対中批判に同調するという、従来からの日本の姿勢を維持して見せた。日本は、米国による鉄鋼・アルミの輸入制限への対応についても、すでにWTO提訴の手続きに入ったカナダやEUとは一線を画している。現状では、日本は対抗関税の準備をWTOに通知したのみだ。この輸入制限措置で、日本が被る被害は比較的小さいという事情も背景にはある。

しかし米国が現在検討している自動車の輸入追加関税が導入される事態となれば、日本の自動車産業にも甚大な影響が及ぶことから、現在の姿勢を維持できなくなり、カナダやEU、あるいは中国とも協調して米国批判に転じる可能性もあるだろう。このように、米国を除く6カ国の中で、貿易政策を巡る強い対米批判を唯一控えている日本の先行きの戦略は、他国からも注目されていることだろう。

日本が強い対米批判に転じた場合、それが米国の保護貿易主義的な政策に歯止めをかけるきっかけとなる可能性も考えられる一方で、米国からの強い反発を招き、今後の日米貿易交渉、北朝鮮政策、安全保障政策において日本が苦境に陥ってしまう可能性もあるだろう。他方、日本が強い対米批判を控える姿勢を維持すれば、G7の中で米国と共に孤立してしまうリスクもある。日本が対米姿勢をより明確化するという難しい選択を迫られる局面が次第に近づいてきているのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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