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イタリアのユーロ離脱リスクを織り込み始めた金融市場

2018年05月31日

イタリアで再選挙観測が強まる

イタリア政治情勢の混乱が、いよいよ世界の金融市場を揺るがす事態にまで発展してきた。マッタレッラ伊大統領は、ポピュリズム政党「五つ星運動」と極右「同盟」が次期首相に推薦した法学者のジュセッペ・コンテ氏による欧州連合(EU)懐疑派の閣僚人事案を5月27日に拒否し、翌28日には国際通貨基金(IMF)元高官のカルロ・コッタレッリ氏を首相候補に指名して組閣を命じた。

しかし両党は議会で同氏を信任しない構えを見せており、さらに早期の再選挙を要求している。両党は、再選挙をユーロ残留の是非を問う事実上の国民投票に変えるのではないかとの観測が市場に燻っている。

通貨リスクを反映したイールドカーブのベアフラット化

こうした事態を受けて5月29日には、イタリア国債の利回りは急騰した。10年国債利回りは前日から47bp(ベーシスポイント、0.01%)程度上昇し、3.1%程度に達した。ドイツの10年国債利回りとの格差は一時290bpと、2013年7月の水準まで拡大している。

しかし同日の債券市場の動きでより特徴的だったのは、長期の利回り上昇というよりも、満期が短い国債利回りほど上昇幅が大きくなり、イールドカーブがフラット化、いわゆるベアフラット化したことだ。例えば2年国債の利回りは180bp、5年は127bp程度それぞれ上昇した。

これは、通貨危機の際に典型的に見られる現象である。近い将来に通貨が切り下げられるとの観測が強まる場合、その切下げ幅と切り下げの確率が利回りに反映される。今回の場合には、イタリアがユーロから離脱し、新たなイタリアの通貨がユーロなど他の通貨に対して切り下がる等の為替リスク・プレミアムが、短い満期のイタリア国債の利回りに反映され始めた、とみることができるだろう。

利回りが高止まりを続ければ、欧州債務問題の構図にも近付く

現時点では、イタリアのユーロ離脱リスクが、それほど高い確率で金融市場に織り込まれている訳ではない。しかしそうした観測が払しょくされずに、短めの国債利回りが高止まりを続ければ、それはイタリア経済を悪化させ、調達コストの上昇から銀行システムを不安定化させ、また財政環境も悪化させるだろう。つまり、事態が長期化すれば、かつての欧州債務問題の構図に次第に近付いていってしまうのである。その結果として、ユーロ離脱観測がさらに強まり、それがさらにイタリアの経済・金融環境を悪化させるという形で、悪循環が生まれてしまう。

金融市場の動揺が事態を悪化させるか改善させるか

5月31日からカナダで開かれるG7財務相・中央銀行総裁会議では、貿易問題、新興国市場の混乱が主題になる。しかし米財務省の高官は、イタリアの政治情勢の混乱が金融市場に与える影響なども議題になるとの見通しを示している。しかし、この国際会議の場でイタリア国内の政治情勢について対応策が議論されるとは思われず、現時点では金融市場への影響などを各国が確認するにとどまるだろう。

金利上昇などの金融市場の混乱は、既に見たようにユーロ離脱観測をさらに強め、両者間で悪循環を生むリスクがある。しかし他方で、金融市場の混乱やそれが実体経済に与える悪影響に対してイタリア国内での不安が強まれば、それが政治情勢の悪化に歯止めを掛け、あるいは「五つ星運動」と「同盟」が拙速なユーロ離脱に向けた動きを控えることに繋がる可能性もありえるのではないか。金融市場の混乱が事態を一段と悪化させる、逆に事態を改善に向かわせる、双方ともの原動力になり得る状況だ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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