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欧州投資銀行の苦悩とプライムブローカレッジ業務

2018年05月28日

ドイツ銀行が最大1万人の人員削減

欧州投資銀行の苦悩が続いている。経営再建中のドイツ銀行は、2018年1-3月期に収入が急減した投資銀行業務の戦略転換を進めている。その一環として、従業員を7千人以上、最大で1万人(全従業員の1割程度)の人員削減を行う考えを、5月24日に明らかにした。米国と英国を中心に、投資銀行業務を縮小するが、計画される人員削減のうち半分程度が投資銀行業務で行われると言われている。

バークレイズは合併先を模索か

ドイツ銀行と並んで投資銀行業務の依存度が高い英国バークレイズは、1-3月期決算で最終赤字に転落した。過去に販売した住宅ローン担保証券に関連する米国での制裁金支払いも収益の重荷になった。こうした中、バークレイズ株の5%超を保有するアクティビスト(物言う株主)が、同行に投資銀行業務の縮小を迫っている。

さらにアクティビストからの圧力を受けて、同行は合併先を探していると報じられている。現時点で有力とされている相手が、スタンダード・チャータード銀行である。

プライムブローカレッジ業務とは?

ところで、欧州投資銀行が縮小対象とする投資銀行業務のなかで、一つの焦点となっているのが、プライムブローカレッジ業務である。プライムブローカレッジ業務とは、投資銀行が主にヘッジファンドの運用者を相手に、ファンド運用のためのサービスを提供するものだ。ヘッジファンドから受けた株や債券の売買注文を執行すること、買った証券を保管すること、空売りするときは借株の手配をすること、決済の事務代行、毎日の口座残高の計算、情報端末を提供など、実に様々なサービスがここに含まれている。

グローバル金融危機(リーマンショック)後に、ヘッジファンドがこのプライムブローカレッジ業務を委託する投資銀行(プライムブローカー)を分散化する傾向を強めた。そのことが、この業務において投資銀行間の競争条件を厳しくしたのである。ヘッジファンドはこのプライムブローカーを選ぶ際に最も重要とするのが、その機関の信用力である。プライムブローカーは信用取引などの際に信用力をヘッジファンドに提供している。そのため、プライムブローカーの信用力が低下すると、そこに決済を依存しているヘッジファンドの様々な取引にも支障が生じる可能性がある。近年、信用力に揺らぎが出ていたドイツ銀行に対してヘッジファンドの間では、プライムブローカレッジ業務の委託を敬遠する動きがあったとみられる。

さらにヘッジファンドは、かなり高度なインフラをプライムブローカーに要求する。それはリアルタイムでポジションの状況を、ポータル・サイトを通じてアップデートする能力が必要となるためだ。そのため、プライムブローカレッジ業務での競争力を維持するためには、投資銀行はIT、トレーディング・デスク、バックオフィスなど、あらゆる面にソースを全力で投入することが必要となる。これは、投資銀行にとってはかなりの負担であり、それがゆえにドイツ銀行は、プライムブローカレッジ業務の縮小を決めた面があるのではないか。

足もと好調なプライムブローカレッジ業務が投資銀行の格差を拡大

ところが、投資銀行全体で見れば、プライムブローカレッジ業務は、足もとでかなりの収入源となっているのである。上位12投資銀行について1-3月期の決算を集計すると、プライムブローカレッジ業務からの収入は49億ドルに達した。これは、過去2年間の同期の平均43億ドルを上回っている。1-3月期には市場のボラティリティ(変動率)が高まったことから、ヘッジファンドがトレードを活発化させた面もあったと見られる。

ドイツ銀行に限らず欧州の投資銀行は、自己資本比率の低下に繋がるバランスシートの拡大を抑える観点から、このプライムブローカレッジ業務を今までも縮小させてきた。こうした結果として、プライムブローカレッジ業務が、投資銀行の中で概して勝ち組の米系と概して負け組の欧州系との差を一段と拡大させる要因となっている。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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