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5月FOMCのMinutes-Accommodative

2018年05月28日

はじめに

5月FOMCの議事要旨によれば、FOMCメンバーは、一部の経済指標の軟化に拘わらず、景気や物価の見通しを変えていないことが確認された。従って、今後の金融政策は緩やかな利上げ路線の維持となるが、会合での議論にはいくつか興味深い論点も示されている。いつものように内容を検討したい。

景気と物価の判断

今回(5月)のFOMCに際してスタッフが提示した経済見通しは、第1四半期の経済指標の軟化を反映して、足もとに関して若干下方修正されたが、その先は概ね不変に維持されたようだ。一方、物価については、逆に足許について若干上方修正されるとともに、先行きについてはやや下方修正されたようだ(6ページ右段)。

これに対してFOMCメンバーによる景気の判断については、雇用や所得、企業収益、センチメント、金融環境、海外経済といった面で良好な状態が維持されているとして、基調には変化がないとのコンセンサスが維持されている。ただし、地区連銀総裁とみられるメンバーからは、通商摩擦に対する懸念が企業行動を慎重化させているとの指摘もみられる(7ページ左段)。

一方、FOMCメンバーによる物価の判断も、労働のslackの減少と賃金の上昇、(商品価格等の)非賃金コストの上昇、インフレ期待の安定といった要因を理由に、インフレは安定的に2%以上に達するとの見方で概ね一致している(8ページ左)。

もっとも、賃金上昇については、加速しているのは労働力不足の顕著な業種に限定されるとの指摘や、労働参加率の短期的な反発によって賃金上昇圧力が緩和されうるといった指摘もみられ、上昇ペースが加速するリスクに関しては否定的な見方が目立っている(7ページ右段)。

足もとでのインフレ率の加速についても、昨年の一時的要因の効果の剥落に加えて、ヘルスケアや金融サービス等といった特定の要因による面も指摘されるなど、物価の基調についても不変との見方がコンセンサスになっていることが示唆される。

こうした議論を反映し、景気や物価の先行きに関するリスクについても、声明文で明らかなように、上下双方に概ねバランスしているとの見方にある。このうち、景気については、財政政策の効果が経済活動に反映されるタイミングと通商摩擦の先行きの不透明性、物価については、潜在成長率を超える成長の継続による景気過熱の可能性と、労働参加率の上昇が賃金を抑制する可能性といった硬軟双方の要素が挙げられている(8ページ左)。

なお、今回(5月)の会合には、スタッフが金融システム安定の状況に関する分析も提示し、資産価格のバリュエーションと事業法人のレバレッジをリスク要因として指摘しつつも、全体としてはmoderateなリスク水準との評価を示した(6ページ左段)。これに対してFOMCメンバーも、スタッフ見通しに概ね同意したようだ(8ページ左段)。

政策判断

FOMCメンバーは、このように景気と物価の基調判断を維持しただけに、当然ながら、緩やかな利上げの継続という方針も維持した(9ページ右)。その上で、今後の政策運営に関していくつか興味深い議論を行っている。

第一に、インフレ率の推移に対する政策運営の対応のあり方である。議事要旨からはどの程度のメンバーが指摘した点であるのか判然としないが、過去数年にわたって実際のインフレ率が2%目標を下回って推移してきただけに、インフレ率が現在のまま2%を超えた状況で維持されると考えるのは時期尚早との意見が示されている。その上で、数名(a few)のメンバーが、長期のインフレ期待の安定性に疑問を提示している(9ページ左)。

この点は、5月FOMCの声明文がインフレ目標の「対称性(symmetry)」を確認した点と整合的である。実際、今回(5月)の議事要旨でも、インフレ目標に関する記述には「対称的な(symmetric)」という修飾語がしつこく付与されている。そして、FOMCメンバーは、当面の政策運営について、景気と雇用を維持しつつ、インフレ率を長期の「対称的な」目標近辺に維持することを主眼とすることで一致している(9ページ右)。

第二に、金融政策の中立性に関する評価とその説明である。数名(a few)のメンバーは、緩やかなペースではあれ、利上げを続ければ、実際の政策金利が中立水準に近づく点を確認した上で、現在の中立金利は(FOMCメンバーが推計を示している)長期の中立水準よりも低い可能性を指摘した。つまり、実際の政策金利が、予想以上に早く(真の)中立水準に達する可能性である。

こうした議論を受けて、数名(some)のメンバーは、現在の声明文に記されている表現を変更すべきとの課題を提起した。具体的には、「政策金利は、当面の間は、長期的な水準よりも低位に止まると思われる」という表現と、「政策スタンスは緩和的(accommodative)に維持される」という表現である。

これら二つの議論が同じメンバーによって提起されているかどうかは、残念ながら議事要旨からは判然としない。また、先に指摘したように前者の議論も含めて、こうした考え方がFOMC内でどの程度の支持を集めているのかも、必ずしも明らかではない。

しかし、以前の本コラムでも取り上げたように、少なくとも前者の議論は1月のFOMCから継続して取り上げられてきており、しかも、少なくともこの間の議事要旨には明確で強力な反論がみられなかった。今回初めて明確になった後者の議論も、少なくとも政策運営に対する意味合いの点では、前者と整合的である。

つまり、これら二つの議論がともに発するメッセージは、FOMCとして、少なくとも利上げペースを加速させる考えはないということであり、より長い目で見れば、長期インフレ期待の確実なアンカーを重視して、実際のインフレ率のある程度のオーバーシュートを許容する可能性を示唆することになる。

FOMCによる景気や物価の基調判断がそのまま実現するようであれば、こうした政策運営に伴うリスクは少ない。もっとも、市場が注目するように、財政政策による実体経済の拡大効果や商品価格の上昇といった要因が予想外に大きかった場合、インフレ率の実際の加速に対して、FOMCによる政策運営の適切さが改めて問われる可能性も残る。

こうして、次回(6月)のFOMCは、追加利上げ自体よりもむしろ、その先の政策運営方針をどう判断し、どう伝えるかという点で注目すべき会合となる訳である。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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