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米国ドッド=フランク法改正法の成立

2018年05月25日

2018年5月24日、米国のドナルド・トランプ大統領は、5月22日の下院本会議で可決された「経済成長・規制緩和及び消費者保護法案(Economic Growth, Regulatory Relief, and Consumer Protection Act)」に署名した。これによりトランプ大統領が就任直後から主張してきた、2008年の世界金融危機を受けて2010年7月に成立したドッド=フランク法(ウォール街改革及び消費者保護法、以下「DF法」という)の見直しが、一定の範囲で実現することとなった。

今回成立した改正法は、①住宅ローンへの消費者のアクセスの改善、②消費者金融における規制緩和と消費者保護、③退役軍人・消費者・住宅所有者の保護、④一定の銀行持株会社に対する規制の適正化、⑤資本形成の促進、⑥学生である借り手の保護、と題する6編から構成され、各編に盛り込まれた内容の概要は次の通りである。

第1編「住宅ローンへの消費者のアクセスの改善」は、1968年貸付条件表示法(TILA)、1989年金融機関改革回復執行法(FIRREA)、1975年住宅抵当貸付表示法(HMDA)、1934年連邦信用組合法、2008年抵当貸付免許安全・公正エンフォースメント法などの諸規定を改正するもので、主に小規模な金融機関による住宅ローン提供をめぐる手続の簡素化を図る内容が盛り込まれている。

第2編「消費者金融における規制緩和と消費者保護」は、連邦預金保険法や1956年銀行持株会社法などの諸規定を改正するもので、総資産100億ドル未満のいわゆるコミュニティ・バンクに対して適用される諸規制の緩和を図ろうとしている。自己資本比率規制の簡素化と基準の見直し、自己勘定取引を規制するいわゆるボルカー・ルールの適用除外、監督当局への報告様式の簡素化、検査サイクル長期化の対象範囲拡大といった内容が盛り込まれている。財務省に対して金融機関が直面するサイバー・セキュリティ上のリスクについて調査・報告するよう求めるといった規定も含まれる。

第3編「退役軍人・消費者・住宅所有者の保護」は、1970年公正信用報告法(FCRA)や1937年合衆国住宅法などの諸規定を改正するもので、住宅ローンの借り手に対する債権回収手続を慎重に進めることや過剰貸付を防止することなどを狙いとする内容が盛り込まれている。

第4編「一定の銀行持株会社に対する規制の適正化」は、2010年金融安定法(DF法第1編)や連邦預金保険法の諸規定を改正するもので、厳しい規制の対象となる金融機関の範囲を限定することなどを狙いとする内容が盛り込まれている。

具体的には、「システム上重要な金融機関」とされ得る金融機関の総資産基準を500億ドル以上から2,500億ドル以上に引き上げるほか、総資産2,500億ドル未満の金融機関に対するストレス・テストの実施義務を撤廃する、リスク審査委員会の設置を義務付ける金融機関の範囲を総資産500億ドル以上に限定するといった内容が含まれる。連邦預金保険公社(FDIC)などの監督機関に対して流動性比率規制の計算方法を改めるよう求める規定なども設けられている。

第5編「資本形成の促進」は、1933年証券法や1940年投資会社法の諸規定を改正するほか、証券取引委員会(SEC)に対して調査・報告や規則改正の検討など様々な措置を講じるよう求めるものである。

具体的にはNMS(全国市場制度)銘柄とされる株式等の各州での登録義務を一律に免除すること、SECがアルゴリズム取引の影響について調査・報告すること、投資会社法の規制の適用を除外されるベンチャー・キャピタル・ファンドの範囲を拡大すること、2012年のJOBS(Jumpstart Our Business)法によって創設された5千万ドル以下の少額募集に関する登録免除ルールである、いわゆるレギュレーションA+の適用対象を拡大すること、などの内容が盛り込まれている。

第6編「学生である借り手の保護」は、TILAやFCRA、金融リテラシー及び教育改善法の諸規定を改正するもので、学生ローンの回収手続の適正化や高等教育における金融リテラシー教育のベスト・プラクティス策定などに関する規定が盛り込まれている。

今回成立した法案の内容は、2017年6月に共和党が多数を占める議会下院を通過した「ファイナンシャル・チョイス法案」に比べれば、DF法の規定見直しという面ではかなり限定的なものとなっている。下院法案には、ボルカー・ルールの全面廃止や金融機関の整然清算手続に代わる破産手続の導入などの思い切った内容が盛り込まれていた。これに対して今回の法案では、規制緩和の対象範囲が中小金融機関に限定されているため、DF法の大幅な見直しを声高に主張してきたウォール街の大手金融機関にとっては、あまりメリットのない法改正になったと言わざるを得ない。

もっとも、それは今回の改正の最大の意義が、2018年秋の中間選挙をにらんだトランプ大統領の政治的な得点稼ぎという点にあると考えれば、大いに納得できるものである。

トランプ大統領は、貿易問題など他の分野においても、自らの強固な支持基盤として期待される中小製造業者等の視線を強く意識した姿勢を打ち出している。今回の法改正にあたっても、中小企業、中小金融機関にとってメリットのある内容になるのであれば、DF法の見直しを徹底することよりも政策実行力をアピールするためにも何らかの成果を早期に示すことの方を優先したと見ることができるだろう。もともと超党派で提起された法案でありながら、ホワイトハウスでの署名式典に出席した唯一の民主党議員が、トランプ大統領に対する支持の強いノース・ダコタ州から僅差で選出され、今秋改選期を迎えるハイディ・ハイトカンプ上院議員であったという事実にも今回の法改正の政治的な意義が強く表れているのではないだろうか。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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