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各国でビッグデータ囲い込みの動き

2018年05月21日

EUで「一般データ保護規則(GDPR)」が施行

欧州連合(EU)では、個人データの保護を大幅に強化する「一般データ保護規則(GDPR)」が5月25日に施行される。EU域外へのデータ持ち出しを原則禁止とすることや、基本的人権の観点から個人データ保護の体制整備を企業に求めることなどが柱となる。

今回の措置の大きな狙いは、「プラットフォーマー」と呼ばれるIT大手が利用者から集めた膨大なデータを積極活用するなか、個人のプライバシーが侵害されたり、競合他社のビジネスが妨害されたりすることを防ぐことにある。この措置によって「ターゲティング広告」は、利用者が同意しなければ原則禁止される。ターゲティング広告とは、利用者の行動履歴を元にして、顧客の興味関心を持ちそうな商品、サービスにターゲットを絞ってインターネット広告配信を行うものだ。

プラットフォーマーとEUとの対立は以前から続いている。欧州委員会は昨年6月に、グーグルに対し24億2千万ユーロの制裁金を科した。自社サイトを、検索画面の上位に表示されるように優遇したことが、EUの独占禁止法違反にあたるという判断による。

中国の「インターネット安全法」

他方、中国での個人情報保護については、法制面からの対応が遅れていると見られてきた。関連する規定が刑法、消費者関連法、省令などに分散されて複雑だった。しかし2017年6月に「インターネット安全法」が施行され、規制が整理されると共に大幅に規制が強化された。

同法は、ネットワーク事業者にセキュリティー体制の構築や責任者の設置義務を課している。さらに重要情報インフラ運営者に対しては、中国で集めた個人情報や重要データの海外持ち出しを原則禁止した。違反すれば最高50万元(約850万円)の課徴金や、違法所得の没収が命じられる。これは、EUでのGDPRを先取りした内容でもある。

日本でも動き

日本でも公正取引委員会が2018年3月に、アマゾンジャパンに対して、納入業者に商品値引き分の一定割合を不当に負担させた疑いがあるとして、独禁法違反の容疑で立ち入り調査に入るという事案が発生している。

また2017年1月には、公取委は競争政策の観点からビッグデータの扱い方について考える有識者検討会を設置した。2017年6月にまとめたその報告書では、消費者の利益が損なわれる恐れがある場合には、独占禁止法に基づき対応すると指摘し、デジタル・プラットフォーマーの独占化、寡占化に対する警戒を表明している。

個人データの活用が国の競争力を決める

個人データ管理の主導権をプラットフォーマーから個人が取り戻す、というのがEUの一般データ保護規則(GDPR)の底流にある考えだ。規則には、個人のデータをその個人が取り戻し、また他のサービスに移せるようにする「データポータビリティー」の規定も含まれている。

しかしこうした規則は、個人のプライバシー保護の観点からのみ導入されたものではない。ビッグデータが経済や社会の中核的資源となる中、一部の企業がそれを独占する構造を崩し、幅広い企業と個人によるデータ活用が進むことによって、経済全体の付加価値が高められるという考えがあるのではないか。

さらに国の競争力をも左右するビッグデータを、各国が奪い合うという色彩も強まっている。中国のインターネット安全法、EUのGDPRには、ともに国境を越えたビッグデータの移転を禁止する規制が含まれており、ビッグデータ囲い込みの意図がある。

経団連は「デジタル省」の創設を求める

ビッグデータに関する法整備では、日本はEUや中国など海外に遅れている印象がある。日本企業からもそれが国際競争力の低下に繋がることを懸念する声が高まっている。

経団連は、政府に「デジタル省」の創設を求める提言を5月15日にまとめた。この中で、ビッグデータの活用は経済成長のカギを握ると指摘したうえで、アップルやグーグルなど海外のIT企業は、スマートフォンなどから得られる膨大なデータを活用して新しいビジネスを生みだし、急成長を遂げていると分析したうえで、日本での対応の遅れを指摘している。さらにビッグデータの活用を、国を挙げて強力に推し進める必要があるとして、現在は各省にバラバラに置かれている担当部署を統合して、新たにデジタル省を創設すべきだと提言している。

今後はビッグデータを巡る国の間での争奪戦の様相が一段と強まっていくだろう。ただし電子商取引のように、個人の経済活動がグローバル化するなか、そこで蓄積されるビッグデータを国境で厳格に分断することは、実際には難しいだろう。またそれを無理に推し進めようとすれば、データ活用が委縮してしまうことにもなりかねない。

いずれは各国が利益を分け合えるよう、データ利用に関する共通したルールを構築する取り組みが必要になってくるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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