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合意遠のくNAFTA再交渉

2018年05月18日

過ぎてしまった5月17日の期限

トランプ大統領は、5月17日を期限に据えて北米自由貿易協定(NAFTA)改定の交渉に臨んできたが、その期限がついに過ぎてしまった。米政府は以前より米議会による年内の承認を目標に掲げているが、5月17日頃までに合意しないと諸手続きの関係から12月末までに承認を得ることができなくなる可能性がある。そこでライアン下院議長が、5月17日を非公式の期限としてきた経緯がある。年内の議会承認が得られない場合には来年の新議会に承認を求めることになるが、11月の中間選挙で共和党が下院の過半数を失う可能性が高まっており、その場合、来年の新議会のもとでの承認はよりハードルが上がってしまう。

メキシコと米国の対立の構図が強まる

再交渉で最大の争点となってきたのが、自動車の関税に関わる「原産地規則」だ。これは、部品の域内調達比率を62.5%以上にすれば自動車の関税をゼロにするという規則で、米国は大幅な比率引き上げを要求している。メキシコとカナダはこれに反対してきたが、米国はこの比率を維持する代わりに、そこに高い賃金の労働者によって作られた部品という制限を付けることを新たに提案しているようだ。これでは、米国ではなく低賃金のメキシコで作られた部品を多く使った自動車は、米国に輸出する際にゼロ関税とはならないことになるため、メキシコは強く反発してきた。ただし足もとではやや態度を軟化させているという。それを認める代わりに、自動失効条項の適用や、紛争処理メカニズムの廃止という要求を取り下げるよう、米国に働きかけている。自動失効条項とは、議会で承認がなされなければNAFTAが5年後に自動的に失効する条項である。

他方、カナダ側からは、合意が近いとのやや楽観的な発言も出てきている。米国への対応で、メキシコとカナダの間でやや温度差が出てきたようにも見える。従来は、結束して対米交渉に臨むという戦略をとってきた両国だが、米国側が両者の結束を崩すような、分断化戦略をとっている可能性もあろう。

米国のNAFTA離脱も

5月17日まで、あるいは今週いっぱいに合意できなければ、NAFTAの再交渉が自動的に決裂する訳ではない。しかし、11月の中間選挙を睨んで選挙公約の実現を進めているトランプ大統領にとっては、なし崩し的な合意時期の先送りは避けたいところだ。トランプ氏はこれまで、カナダとメキシコが大幅な改正に合意しなければNAFTAを脱退すると繰り返し圧力をかけてきたことから、そのリスクが次第に高まっているようにも見える。

もう一つ重要な期限として注目されるのが6月1日だ。NAFTA再交渉の合意がまとまらなければ、メキシコとカナダに対する米国の鉄鋼・アルミニウム関税の適用除外が失効し、新たに関税を課せられる可能性がある。ロス米商務長官は、6月1日時点のNAFTAの進ちょく次第で、大統領は(メキシコとカナダに対する)措置を延長するか否か判断する、と述べている。

再交渉長期化も

ただしここにきて、農業が盛んな州から選出された共和党議員は、トランプ大統領にNAFTAから離脱しないように、強く働きかけている。離脱となれば、メキシコとカナダへの農産物の輸出が大きな打撃を受けるためだ。

また労働組合や民主党議員らは、労働者の権利や環境規制など幅広い合意が達成されるのであれば、合意を急がずに交渉を継続するよう強く望んでいる。他方、企業団体や多くの共和党議員は、期限を設定してメキシコとカナダに強く圧力をかける政権のアプローチに懐疑的であり、交渉が長引くことを受け入れる考えであるとも聞かれる。

こうした関係者の意見を受け入れるのであれば、トランプ大統領は合意を急ぐ、あるいはNAFTAから離脱するという選択肢ではなく、交渉を続けるという道を選ぶ可能性も十分にあろう。いずれにせよ、11月の中間選挙にとってプラスになるかどうかという一点に基づいて、NAFTA再交渉の戦略も練られていくことになろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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