1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 木内登英のGlobal Economy & Policy I…
  5. 何のための消費税率引き上げか

何のための消費税率引き上げか

2018年05月16日

政府が消費増税後の反動減対策を検討

5月15日付けの日本経済新聞は、2019年10月に予定されている消費税率引き上げ後に政府が講じる予定の反動減対策の概要を報じている。それによれば、住宅ローンと自動車関連の減税が柱となる模様だ。6月頃にまとめる骨太の方針(経済財政運営の基本方針)に方向性が盛り込まれるという。

住宅ローンについては、借入残高に応じて税負担が10年間で最大500万円軽くなる現行の住宅ローン減税を拡充し、消費増税後に減税規模を一時的に引き上げる措置や2021年末まで期間を延長する案などが検討されている。自動車については、普通車では購入時に3%が適用される自動車取得税を廃止し、燃費に応じて0~3%となる新税の導入が検討されている。

財政赤字削減効果を減じる

しかしこうした施策が本当に必要であるのかについては、疑問も残る。第1に、消費増税前の駆け込み購入の反動減をちょうど相殺するように需要を作り出すことなどは、まさに至難の業である。タイミングが合わなければ、反動減対策とならない一方、不要な需要を作り出してしまうことにもなる。また、その施策の効果が剥落した時点で、新たな需要の落ち込みを作り出してしまう。景気の振幅を均すどころか、むしろ増幅してしまう可能性もある。

第2に、新たな需要の落ち込みを作らないためには、恒久的な措置とするのが有効となるが、その場合には消費増税による財政赤字削減効果を減じてしまう。2019年10月に消費税率は現行8%から10%へと引き上げられる予定であり、それによる増収額は年間5兆円強である。しかし、軽減税率の導入と教育無償化といった恒久措置によって、このうち計2兆円超が使われる。残りの3兆円程度のなかから反動減対策に財源が割り当てられれば、財政赤字削減効果は一層小さくなってしまう。これでは、何のための消費税率引き上げなのか、との疑問が生じる。

消費税率引き上げの本来の意義が薄れる

第3に、政府が消費税率引き上げ後の反動減対策に注力することで、消費税率引き上げの本来の意義、必要性などが国民により意識されなくなってしまうという弊害があるのではないか。消費税率引き上げを通じた財政健全化の試みは、財政リスクが意識されることで金利上昇など金融市場が不安定化することを回避し、また中長期的な経済の安定成長を確保するとの観点から重要なのである。

消費税率の引き上げの是非が議論される際には、過去においても、短期的な経済への悪影響が議論の中心であった。他方、消費税率引き上げを通じた財政健全化の重要性については、議論される機会は必ずしも多くはない。そもそも中長期の観点から消費税率引き上げを通じた財政健全化策が重要であるとの判断がひとたび下されれば、消費税率引き上げに伴う景気の振幅は一時的な現象に過ぎない。時間軸が大きく異なる、財政健全化策の効果と消費税率引き上げに伴う短期的な景気への影響とを同じテーブルで比較して論じること自体正しくないだろう。そもそも財政健全化は、国家百年の計とも言えるものである。

さらに、政府が消費税率引き上げ後の反動減対策に注力しすぎると、消費税率引き上げ措置の悪い面ばかりが国民に意識されやすくなってしまう、という弊害もあるのではないか。

2019年消費税率引き上げによる家計の負担額は2.2兆円

日本銀行は、2019年10月の消費税率引き上げによる家計の負担額を、2.2兆円と試算している。これは、1997年の消費税率引き上げ時の8.5兆円、2014年の8.0兆円と比較して格段に小さいものだ。それは、①税率の引き上げ幅が2%(8%から10%)と前回の3%よりも小さいこと、②軽減税率導入など恒久的な措置が負担減に寄与すること、によるものである。さらに、2014年の消費税率引き上げが実施された時点では、翌年にも追加の引き上げが予定されていたことから、それも踏まえた駆け込み購入が発生した。

こうした点と税率の引き上げ幅が小さいことを考え合わせれば、2019年の消費税率引き上げの際に発生する駆け込み購入の程度はより小さく、その結果、反動減も小さくなる可能性が高い。

財政健全化の重要性をもっと説明すべき

政府が消費税率引き上げ後の反動減対策に腐心するのも、2014年の消費税率引き上げが景気をかなり悪化させた、との認識に基づいている。しかしこの点は、再検討が必要だ。2014年度の実質GDP成長率は当初は-1.0%(実質個人消費は-3.1%)であったが、その後の統計改定を受けて現時点では-0.3%(同-2.5%)とマイナス幅がかなり縮小している。さらにGDP統計の個人消費の推計の問題点などを考慮すれば、経済の実体はもっと良かった可能性も考えられる。

政府が国民に対して消費税率引き上げ後の反動減対策を強くアピールすることで、消費税率引き上げの経済に与える悪影響について、国民の間で過度に警戒させるようなことにならないか。むしろ消費税率引き上げを通じた財政健全化の重要性を、政府は改めて丁寧に国民に説明すべきである。消費税率引き上げに関して、政府にはよりバランスのとれた情報発信を期待したいところだ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

この執筆者の他の記事

木内登英の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています