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大幅な実質円安状態と金融政策正常化の余地

2018年05月10日

米国政府は円安を警戒か

米国財務省が先月公表した「為替報告書」では、日本の実質実効円レートは、過去20年間の平均値と比べて25%近くも円安水準にあること、また名目円レートでみると、2013年の前半から歴史的な平均値を下回っていること、が指摘された。こうした記述から、米国政府は、2013年4月の日本銀行の量的・質的金融緩和導入以降、円の価値が大きく下落したとの認識を持っていることが窺い知れる。

さらに、この先円安がさらに進む局面や、日米間での貿易摩擦問題が激化する局面などでは、日本銀行の金融政策が事実上の為替操作であるとの批判を始め、円安牽制あるいは円高誘導をしかけてくる可能性も考えられる。そうなれば、日本銀行による金融政策の正常化に向けた動きが、より促される事態に発展することもあり得るだろう。

日本銀行公表の円の実質実効レートも25%の大幅安を示唆

日本銀行も国際決済銀行(BIS)の統計に基づいて、円の実質実効レートを公表している。円の実質実効レートとは、各通貨と日本円との間の為替レートを両国の物価指数の比率の変化で調整したうえで、さらに貿易額で加重平均して指数化したものである。これは日本の国際競争力を計る一つの指標とも考えられる。

最新値2018年3月時点で、その指数(2010年平均=100)は76.1である。この水準は、変動相場制移行(1973年2月)後の歴史的平均値である97.7を22%程度下回っている(図)。そして本日時点では、米国財務省の「為替報告書」と同様に、歴史的平均値をちょうど25%下回っていると試算できる。

また円の実質実効レートの水準は、量的・質的金融緩和導入前に概ね歴史的平均値にあったものが、導入に前後して急速に下落し、大幅な円安状態に転じている。


金融政策の正常化は初期に通貨高を招きやすい

ところで、この先日本銀行が金融政策の正常化を進める中では、為替市場で円高傾向が強まる可能性は否定できない。他方で、この円高進行が正常化策の妨げとなることも考えられる。2014年後半から2015年にかけてドル高傾向が強まり、また昨年はユーロ高傾向が強まったが、いずれも金融政策正常化への期待が影響している。主要中央銀行が金融政策の正常化に踏み出す初期段階では、自国通貨高が生じやすいのだろう。日本銀行が正常化策を進める、あるいはその可能性が市場で意識される局面では、少なくとも短期的には同様に円高傾向が強まる可能性は十分にある。

大幅円安によって正常化の余地は大きい

しかし、現在の円の実質実効レートは、既に見たように歴史的平均値を25%も下回っているのである。この歴史的平均値を日本経済の国際競争力の観点から均衡水準あるいは中立的水準と見なせば、現在は日本経済にとっての中立的な水準と比べて、円は大幅安の状況にある。当然ながら、自ら統計を公表している日本銀行はこのことを認識している。

急速な円高については、株価下落を招くなど金融市場の安定の観点から問題がある。また急速に円高が進行する時には、人々はその経済への悪影響を心配するため、日本銀行はその点に配慮し、急速な円高を回避しつつ、慎重に正常化を進めていくことを強いられるだろう。しかしながら水準で見れば、実体経済に悪影響を与える水準までにはかなりの距離がある。円の実質実効レートの現在の水準と歴史的平均値との乖離から仮に概算してみると、経済に中立的なドル円レート水準は80円台前半となる。

こうした点を踏まえると、緩やかな円高進行を伴いつつも、日本経済に深刻な打撃を与えることを回避しながら日本銀行が金融政策の正常化を先行き進める余地は、かなり大きいのである。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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