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新興国から本格的な資金流出が始まった?

2018年05月09日

新興国市場に動揺が広がる

新興国市場に動揺が広がっている。4月後半から5月にかけて新興国市場からの資金流出が目立ってきた。そのきっかけとなったのは、米国での長期金利上昇とドル高進行だ。4月末には、米財務省証券10年利回りは3%に達し、またドルは4月後半から急速に上昇基調を強めている。

国際金融協会(IIF)によると、今年4月は新興国市場で非居住者が株式や債券を2億ドル売り越し、資金が流出超過に転じた。これは、2016年11月の米大統領選時以来のことである。今年1~3月には新興国の株式や債券に計509億ドルの投資マネーが流入していたが、4月以降、一気に巻き戻しが生じている。

アルゼンチンは政策金利を40%まで引き上げて通貨防衛

この局面で最も打撃を受けている新興国市場は、アルゼンチンとトルコである。アルゼンチンの通貨ペソは、年初来15%程度下落している。通貨安に歯止めを掛ける通貨防衛のために、アルゼンチン中央銀行は5月4日に政策金利を40%にまで引き上げる措置を決めた。この思い切った措置が、通貨防衛に対する当局の強い意志を示すと市場が認識し、資金逃避に歯止めが掛かる可能性もある一方、この金利水準では国内経済に深刻な悪影響が及ぶことから、長く維持することはできない、と市場に見透かされれば、通貨安定効果は削がれてしまうだろう。アルゼンチンのマクリ大統領は5月8日に国際通貨基金(IMF)に支援を求めたことを明らかにした。融資枠は300億ドル規模と報じられており、事態はより厳しさを増している。

トルコも利上げで通貨防衛を計っているが、今のところは成功していない。背景には財政赤字の拡大、インフレリスク、エルドアン大統領による強権的な政権運営に対する市場の不信感などがある。トルコリラは対ドルで過去最安値を更新しており、過去1年の下落率は17%程度にも達する。

原油価格上昇も新興国市場に打撃

米国金利上昇、ドル高と並んで、新興国市場に打撃となっているのが、原油価格の上昇だ。5月7日にはWTIの価格は、1バレル70ドルの節目にまで達した。原油価格上昇は、原油純輸出国の経常収支を改善させる一方、原油純輸入国の経常収支を悪化させ、通貨安を加速させやすい。そうしたリスクが特に懸念されるのが、トルコ、インドなどである。

足もとでの新興国市場の動揺については、米連邦準備制度理事会(FRB)が資産買入れペースの縮小を示唆したことをきっかけに、新興市場から資金が流出した2013年のテーパータントラムと比較する見方も生じている。より深刻な事態が生じた1997年のアジア通貨危機、あるいはさらに遡って1980年代の南米危機の再来を想起する向きもある。

新興国のファンダメンタルズ改善で楽観論も

他方で、楽観論を唱える向きも少なくない。過去の通貨危機と比較すると、新興国の経済ファンダメンタルズが大幅に改善しているためだ。例えば、全体として経済・物価環境はより良好であり、また経常収支は改善している。外貨準備の水準も高まった。またアジア通貨危機の際には混乱を加速させた硬直的な為替制度もかなり見直された。

その結果、新興国市場が米国での長期金利上昇やドル高といった外的ショックに対する抵抗力を高めたことは疑いがない。この点を踏まえれば、市場の動揺は、経済ファンダメンタルズに問題がある一部の新興国にとどまる、との見方もあろう。

過度なリスクテイクの反動という側面

しかし市場混乱のリスクは、ファンダメンタルズだけで決まるものではない。市場環境が変化する前に、どの程度投資家によるリスクテイクが進み、価格形成に行き過ぎが生じていたかによっても左右される。歴史的低金利環境の下で、新興国市場投資に過度のリスクテイクが長らくなされていた場合には、より大きな幅での価格の調整、いわゆるリプライシングは避けられないだろう。

アルゼンチン市場の動揺の程度が他の新興国よりも深刻なのは、昨年までは投資対象として非常に注目され、資金を多く集めた代表的な新興国市場であったためでもある。現在起きているのは、その反動、巻き戻しである。マクリ大統領の下で経済改革が進むとの期待が高まり、昨年には利回り8%程度の100年国債を発行した。200年前の建国以来計8回、そして過去100年間だけで5回もデフォルト(債務不履行)しているアルゼンチンが100年国債を発行できたのは、市場の過大な楽観に支えられていたためだろう。

新興国市場全体が、低金利下での過度なリスクテイクの対象に長らくなっていたとすれば、市場の調整は経済ファンダメンタルズに関わらず一様に生じやすいのではないか。

新興国市場への投資家の構造変化にも注目

また、新興国に証券投資を行う投資家の質が変化していることが、新興国からの資金流出を一気に加速させやすい点にも留意したい。IMFは、そうした移り気の強い傾向が最も強い投資家は海外ノンバンクであり、そのなかでも取分け移り気で、新興市場のボラティリティを高めやすいのが、海外の投資信託やETFであるという。これらの投資家が持つ新興市場の債券は、全体の6分の1程度に達しており、ウクライナ、エジプト、アルゼンチンなどの国では3分の1以上である。

新興国市場が本格的な調整局面に入った可能性も念頭に

実際、エマージング市場のETFからは、足もとで大きく資金が流出している。ETFに多くの資金を注ぎ込む個人投資家は、一方向の投資行動をとりやすく、市場が調整を始めるとその調整を加速させやすい。

米国を中心に、先進国で金融政策の正常化が進み、金利水準が高まる中で、こうした新たな投資家が、果たしてどのような行動をとるかについては、過去の知見が十分にないことから予想できない部分がある。こうした点も踏まえると、新興国市場が本格的な調整局面に入った可能性も念頭に置き、警戒しておく必要があるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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