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米中貿易協議は事実上の物別れ

2018年05月07日

米中貿易協議は物別れ

米中間の貿易問題を話し合う協議が5月3、4日に北京で行われたが、互いが大きく譲歩せずに、事実上物別れに終わった。貿易不均衡の是正や知的財産権保護を進める新たな合意に達することはなかった。その結果、米中両国がお互い輸入品に関税を課す可能性が高まったといえる。

米側はムニューシン財務長官やロス商務長官ら経済担当の閣僚が参加した。中国側は、習近平国家主席の経済ブレーンとされる劉鶴(リウフォー)副首相らが臨んだ。当初は中国の習近平国家主席や王岐山副主席と米国の閣僚も会談する予定だったが、実現しなかった。両国間では、共同声明に関する合意も得られなかった模様だ。中国側からの発表によれば、両国は対話を通じて、今後も経済・貿易問題の解決に尽力することを確認しただけであった。

米国は赤字削減額要求を倍増

両国の交渉が物別れとなった理由の一つは、米国側がより強硬な姿勢で協議に臨んだことがあるだろう。今回の協議で米国側は中国側に、2020年までに2,000億ドルの貿易赤字削減への協力などを求める「要求リスト」を提示した。それ以前は1,000億ドルの貿易赤字削減を求めていたが、要求額を一気に倍増したのである。この点から、米国側は中国側からの反発を覚悟して協議に臨んでおり、中国と早期に合意に達することを、もともと目指していなかったようにも思われる。さらに、2020年をめどに重大な分野を除く全製品の輸入関税を、米国を上回らない水準にまで下げることも求めた。

他方、対米貿易黒字の削減に関して、中国側は自動車の輸入関税引き下げなど、輸入拡大の具体案を示した模様だ。

次世代技術開発をめぐる主導権争いの側面も

両者間の問題は、純粋な貿易不均衡問題にとどまるものではない。問題の本質は世界経済の覇権を巡る対立であり、特に米国側はそうした意識が強い。ビッグデータの解析、AI(人工知能)の活用、ロボットなどの最先端分野で、中国が市場の支配を進めることに米国政府は強い懸念を抱いている。これはかつての日米間での貿易摩擦問題が、カラーテレビ、自動車、半導体など、それぞれ当時の先端分野の貿易財を中心に繰り広げられたのと似ている。

中国の先端技術に関して米国政府が警戒心を強めるきっかけの一つとなったのは、中国が2015年に策定した行動計画「中国製造2025」だった。ここでは、ITやロボットなど10分野を重点的に強化し、10年間で世界トップレベルの「製造強国」に並ぶことを目標としている。

また協議では、政府の支援を受けた中国企業が海外企業の買収を通じて技術を入手したり、中国内で活動する海外企業に技術移転を求めたりする行為を知的財産の侵害であるとして、米国側は中国側に改善を求めた模様だ。米国は、中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の2社を特に警戒している。2017年の国際特許出願件数で、両社は1、2位を占め、またスマートフォン市場でもシェアを伸ばしている。米メディアによると、国防総省は世界の米軍基地で2社の携帯電話の販売を禁止した。米政府は、中国政府が2社に対し、米国の通信網への侵入や通信障害を引き起こすよう命じることができると懸念しているという。

中国政府は、知的財産権の侵害につながるハイテク産業への補助金を削減する米国側の要求を拒み、代わりに自動車や金融の分野で市場開放を加速する考えを示したとみられる。

対日の制裁関税戦略が中国にも通用するか?

通商法31条に基づく制裁関税措置の発動を武器に、相手国に貿易不均衡の是正や市場開放を求める戦略は、80年代、90年代の日米貿易摩擦時に米国政府が採用した常とう手段だ。世界貿易のルール作りを担う世界貿易機関(WTO)が発足した95年以降は、ほとんど発動されてこなかったが、トランプ政権下で復活した。

制裁関税措置を武器に交渉に臨む米国政府の戦略は、対日交渉では非常に上手くいったというのが、米国政府の認識だろう。実際、日本政府は多くの譲歩を余儀なくされた一方、現在の中国のように、米国側に報復関税をかけるような姿勢は見せなかった。米国が対日交渉におけるこうした成功体験をベースに、対中交渉に臨んでいる可能性が考えられる。

しかし周知の通り、日本側が貿易問題で米国に譲歩せざるをえなかったのは、日本は安全保障の面で米国に強く依存している、という事情があったためである。しかし米中関係は、それとは異なっている。さらに、80年代、90年代と比べて政治、経済面での米国のプレゼンスは世界の中で低下しており、またトランプ政権の「米国第一主義」のもとでは米国はむしろ孤立感を強める局面も目立っている。こうした点を踏まえても、かつての対日貿易問題で米国政府が採用した戦略はより通用しなくなっている。

米国政府は、対中貿易問題の解決に、通商法31条に基づく制裁関税措置の発動を武器にした対中国貿易戦略を見直すことを余儀なくされる可能性はあろう。その場合の新たな戦略は未だ見えていない。

中間選挙を意識した米国政府の対応

貿易問題を巡って中国に対して米政府がとる強硬姿勢は、今年11月の中間選挙を強く意識したものであることは疑いがない。米政府は、中国側に多少譲歩してでも中間選挙までに中国との間で貿易問題に関する合意に達し、その成果を有権者にアピールすることを目指す可能性もあろう。他方で、中国側の姿勢が強固である場合、合意に達することをあきらめ、中国側への要求をさらに高めたうえで中国側への批判をエスカレートさせ、合意が得られないのは中国側が悪いと有権者にアピールすることも考えられるだろう。この場合には、米中貿易問題は長期化が避けられなくなる。

ところで、貿易摩擦をいとわないトランプ氏の手法に、米国内でも批判が高まっている。トランプ政権が講じた輸入制限などにより悪影響を受ける米国内での産業界の一部や農業団体は不満を募らせている。また、5月3日には、ノーベル賞受賞者を含む米国の経済学者ら約1,100人が、保護主義への反対を表明する連名の書簡を発表し、トランプ政権に警告している。

今後の対中貿易に臨む米国政府の姿勢は、中間選挙までのこのような国内世論の動向と、中国側の姿勢の双方を睨んで、硬軟双方に大きく振れる可能性がある。そのため、米中貿易摩擦問題も、両国の譲歩によって比較的短期間のうちに落ち着きどころが見えてくる可能性と、より激化して出口が見えなくなる可能性の双方が併存しているのが現状といえるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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