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米長期金利3%台乗せと新興国からの資金逃避リスク

2018年04月27日

先進国では長期金利が上昇

原油価格高騰などを背景に、米国財務省証券10年金利は2014年以来初めて3%台に乗せ、それが先進国全体の長期金利を押し上げている。また並行して、ドル高傾向も強まっている。一方で、ドル高傾向は欧州中央銀行(ECB)や日本銀行など、主要国での金融政策正常化を後押しする要素もあることから、それが先進国での長期金利上昇を促している面もある。

ところで、米国で金融引き締めが進められ、また長期金利が上昇する局面では、新興国市場への資金流入が鈍化し、あるいは資金流出が生じ、新興国での金融・経済の悪化にもつながることが懸念される。それは世界全体のリスクでもある。

新興国への資金流入は安定維持

近年では、2013年春に米連邦準備制度理事会(FRB)が資産買入れペースを段階的に削減する可能性を示唆したこと(テーパー・タントラム)、2015年夏に中国が人民元を突如切り下げたこと、2016年秋の米国大統領選挙でのトランプ大統領の勝利、の3つを契機として、新興国への資金流入が大きく鈍化し、またネットで資金流出も生じた。しかし、新興市場の混乱は、それほど深刻なものには発展しなかった。また今年2月の米長期金利上昇時にも、目立った混乱は生じなかった。

新興国での対外収支の改善、外貨準備の増加、など経済ファンダメンタルズの改善が、米国での金利上昇などの外的ショックに対して、新興国金融市場の抵抗力を高めている面があろう。海外から新興国へのネット証券投資額は、IMFによれば2017年に2,400億ドルと、2014年、2015年のおよそ2倍の水準に達した。

新興国市場への投資家の構成変化に注意

しかしながら、新興国市場への資金流入については、なお注視しておくべき部分もある。それは、新興国への証券投資をする投資家の構成が変化し金利が上昇すると、資金を一気に巻き戻すような、移り気な投資家の比率が高まっていることである。国際通貨基金(IMF)の分析によれば、最も移り気で、新興市場のボラティリティを高めやすいのが、海外の投資信託やETFであるという。これらの投資家が持つ新興市場の債券は、全体の6分の1程度に達しており、ウクライナ、エジプト、アルゼンチンなどの国では3分の1以上である。

米国を中心に、先進国で金融政策の正常化が進み、金利水準が高まる中で、こうした新たな投資家が、果たしてどのような行動をとるかについては、過去の知見がないことから予想できない部分がある。

買入れ資産削減も新しいタイプの政策正常化

また、従来の経験則が必ずしも成り立たないもう一つの理由は、今回の金融政策の正常化には、買入れ資産の残高縮小という、今まで経験したことがない要素があることだ。FRBは既に昨年10月から買入れ資産の圧縮を開始している。IMFの試算によれば、金利引き上げとともに資産圧縮策が進められる中、金融市場でリスク回避傾向が高まらないとしても、新興国への資金流入額(証券投資)は、2018年と2019年にそれぞれ400億ドル縮小する。さらに、2015年夏の人民元切り下げ後のようにリスク回避傾向が強まる場合には、年間600億ドル縮小するという。これは、2017年の新興国への資金流入額(証券投資)である2,400億ドルの4分の1にも匹敵する規模だ。

このように、今回の先進国での金融政策の正常化の過程では、過去の経験則が成り立たず、不測の事態が生じて新興国市場を大きく混乱させる可能性がある。そしてその影響は、先進国市場にもフィードバックされ、米国を中心に金融政策の運営をより難しくさせるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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