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ミドルリスク企業向け貸出に累積するリスク

2018年04月23日

ヒートマップは緑一色だが

日本銀行は、金融システムの安定性を評価すること等を目的にして、年2回、金融システムレポートを公表している。そのなかで毎回注目を集めるのが、金融面での不均衡の程度を計るヒートマップであり、それは、14の金融活動指数について、それぞれトレンドからの乖離の程度を色分けしたものだ。今回、過熱を示す「赤」や停滞を示す「青」はなく、すべての指標で中立的な「緑」となった。

しかし、「総与信・GDP比率」、「不動産業向け貸出の対GDP比率」、「金融機関の貸出態度判断DI」は、いずれもトレンドから相応に上振れており、かなり「赤」に近い「緑」である。先行きの金融システムの安定性について、必ずしも楽観できる状況とは言えないだろう。

貸出の質に注目

さらに日本銀行は、このような金融機関貸出の量的な側面だけでなく、質的な側面にも注目している。具体的には、貸出金利と信用リスクとの関係である。信用リスクに見合った貸出金利が設定されていれば、金融機関の収益性の観点から問題はないが、信用リスクが過小評価されている可能性がある。

例えば、企業の信用リスクが過去のデフォルト率に基づいて判断される場合、現状のように長期景気回復が続くもとではデフォルト率がトレンドよりも下振れ、信用リスクが過小評価されることが考えられる。この際には、景気情勢が悪化するとともに、デフォルト率が一気に高まり、信用コストの上昇が金融機関の収益を想定以上に悪化させることになろう。

ミドルリスク企業向け貸出に焦点

この観点から、今回の金融システムレポートで、日本銀行が分析対象としたのが、ミドルリスク企業向け貸出である。ミドルリスク企業に分類されるのは、低採算先の中で相対的に財務内容が上位にある企業であり、債務者区分に従えば、その多くは正常先下位にあると考えられる。そうしたミドルリスク企業向けの貸出比率が、近年は目立って高まっている。その背景には、低金利環境の長期化に加えて、貸出競争激化の影響から貸出利鞘が縮小するなか、金融機関が利鞘確保を狙ってミドルリスク企業向けの貸出を増加させ、信用面でのリスクテイクを積極化していることが考えられる。

他方で、ミドルリスク企業は、優良企業に比べて内部資金が少ないため、銀行借入依存度が高く、借入金利の感応度が高い。そのため、金融機関が低金利を提示すれば、容易に借り入れを増やしやすい。このように供給側、需要側の双方の要因を背景に、ミドルリスク企業向けの貸出が増加している。

景気悪化で一気に信用コストが高まる可能性

先行き、景気情勢が悪化する、あるいは顕著な金利上昇が生じる場合には、その多くが正常先に分類されるミドルリスク企業で、要注意先などへと債務者区分が引き下げられる可能性があろう。その際には、金融機関に追加引当が求められ、信用コストが一気に高まることも考えられる。また、過去最低水準で推移している現在の正常先の引当率がリーマンショック時並みに上昇した場合には、37の地域金融機関でコア業務純益が50%以上減少するとの試算も展望レポートの中では示されている。

そうしたことは、金融機関の収益悪化を通じて金融システムの不安定化を招き、あるいは貸出抑制という形で金融仲介機能の低下を顕在化させ、実体経済にも悪影響を与える可能性がある。

金融システム安定に配慮した金融政策を

日本銀行はこのような金融システム上のリスクを十分に把握していても、行政権限を持たないため、考査などを通じて金融機関の貸出行動の修正を直接促すことなどはできない。この点から、マイナス金利解除、イールドカーブ・コントロールの見直しを通じて、金融機関の行き過ぎた信用面でのリスクテイクのインセンティブを減少させていくことが必要となるではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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