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地域金融機関の経営統合を巡る金融庁と公取委の対立

2018年04月19日

長崎県での地域銀行経営統合が難航

長崎県の十八銀行とふくおかフィナンシャルグループ(傘下に長崎県地盤の親和銀行)の統合の是非を巡って、金融庁と公正取引委員会(公取委)との対立が激しさを増している。両行は2016年2月に統合で基本合意に達したが、公取委が統合の可否を示さない中、統合実施の延期を繰り返した。さらに両行は、債権譲渡などで融資シェアの低下を模索したものの、2017年7月には期限を定めずに延期を決めており、統合の白紙撤回も懸念されるところとなっている。

融資シェア7割の基準は適切か

公取委が問題視してきたのは、両行が統合されると、長崎県内における法人向け融資のシェア、いわゆる市場占有率が約7割に達することになり、その結果、競争がなくなることで、融資金利の上昇など顧客に不利益が生じる恐れがある、という点だった。

こうした公取委の見解に対して、地域金融機関の統合を通じて経営の収益性、安定性を高めることを目指す金融庁は、以前より批判を強めていた。さらに、4月11日に公表した金融庁の有識者会議「金融仲介の改善に向けた検討会議」の報告書「地域金融の課題と競争のあり方」では、分析面で日本銀行の強力なサポートも仰ぎつつ、公取委に対して批判の度を一層強めている。

金融庁は報告書で公取委を強く批判

この報告書の主な主張は、以下の各点である。

・地域銀行の貸出額シェアと貸出金利低下幅の間に、相関は見られない。金融機関の寡占度が高まると、効率性が高まることでむしろ貸出金利は低下するとの分析もある。貸出額シェアのみに基づいて、金融機関の市場支配力を判断するのは困難。
・地銀統合を進めなければ、多くの地銀が経営難に陥り、地域経済に悪影響が及ぶ。
・企業数が減少する中で過当な金利競争が続けば、地域金融機関は、地域企業のためになる金融仲介機能を発揮できなくなる。
・人口減少等を通じて収益環境が厳しくなる中で、経営統合は、金融機関の健全性維持のための一つの選択肢である。
・長崎県に比べて隣県からのアクセスが悪い和歌山県でも、近年、県外銀行による貸出が増加している。この点から、県単位での貸出額シェアを重視するのは問題。
・両行の経営統合によるシェアの高まりが、直ちに金利の引き上げなどに繋がる可能性は高くない。
・米国では連邦準備制度理事会(FRB)など金融監督当局が銀行の経営統合の審査を行い、カナダでは、金融担当大臣が、最終的に銀行の経営統合の是非を判断している。
・地域金融機関の経営統合については、金融庁による事後的なモニタリングが有効であることから、競争当局と金融監督当局が連携することが必要。

ボールは公取委側に

現時点では、この金融庁の報告書に対して正式な見解を示していない。一方、公取委は長崎県の企業にアンケート調査を行っており、その結果、他県からの貸出が増えているという実態が分かれば、独占を判断する際の市場の範囲(現在は県単位)を見直す可能性はあると、杉本・公取委委員長は語っている。県単位での貸出シェアで独占のリスクを判断するという従来の姿勢を変更すれば、公取委が両行の経営統合を認める可能性も出てこよう。

いずれにせよ、金融庁が、日本銀行の協力も得ながらかなり精緻な実証分析を今回の報告書で示したことから、公取委も理念に基づく議論にとどまらず、より実証的なアプローチで今後は金融庁らと議論をしていくことが求められる。ボールは公取委側に投げられている。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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