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日米首脳会談は日米2ヵ国貿易交渉へ道を開くか

2018年04月17日

日米首脳の蜜月関係再構築は難しいか

4月17日~18日に、米国・フロリダ州で日米首脳会談が開かれる。主な議論は、北朝鮮問題と貿易問題の2点である。国内で支持率の大幅低下に直面している安倍首相は、この日米首脳会談で成果をあげ、支持率回復の足掛かりにしたいところであろう。しかし、見通しは必ずしも明るくないのではないか。

安倍首相は、昨年2月に、他国に先駆けてトランプ大統領と首脳会談を行い、ゴルフも交えて親密な関係を作り上げた。このいわば蜜月関係を外交政策の大きな成果として、国内でもアピールしてきたといえる。昨年9月に、トランプ大統領が、国連での演説で日本の拉致問題に言及したことは、安倍首相には大きな政治的なポイントになったのではないか。

しかし、今年3月の米国による鉄鋼・アルミに対する追加関税導入で、日本が対象から除外されなかったこと、さらにその際にトランプ大統領が、「安倍首相が、(貿易面で)こんなに長くアメリカを利用できたなんて信じられない、と笑っている」といった主旨の発言をしたことは、日米首脳の蜜月関係がかなり変質したことを印象付けた。

トランプ米大統領は、6月初旬までの実現を目指す米朝首脳会談で、日本人の拉致問題を提起すると見られる。この人権問題が、非核化を巡る北朝鮮との交渉の中で、重要なカードになると判断したためだろう。日米首脳会談で安倍首相は、トランプ大統領に対して拉致問題の解決に向け協力を求めるが、これは受け入れられそうだ。

しかし問題は貿易政策の方であり、トランプ大統領からは2国間交渉を正式に要請されるなど、安倍首相は防戦を迫られ、日米首脳の蜜月関係を再構築し、外交政策上の成果とすることはかなり難しいのではないか。

トランプ大統領がTPPへの復帰を検討

この日米首脳会談に先立ち、トランプ大統領は4月12日に、昨年1月に離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰の検討を関係部署に指示した。トランプ大統領は、TPPに加盟すれば米国はひどいことになるとし、大統領選でも離脱を公約にしてきた。トランプ大統領がこうした考えを翻したとは考えにくいところだ。実際、トランプ大統領は、「オバマ前大統領に提示されたよりも大幅に良い取引であれば、その場合に限ってTPPに復帰するだろう」と、復帰に強い条件をつけている。

トランプ大統領がTPP復帰の検討を指示した背景には、米国内の政治情勢が関係しているのではないか。米国と中国との間の激しい貿易面での対立を受けて、議員らからは、農業など米国の産業への報復措置を招くような関税を手段にするよりも、ほかの国と協調して中国に圧力をかけるべきだ、との主張が聞かれる。農業関係者からも同様な意見が出てきており、また農業が盛んな州では、米国抜きでTPPが発効すれば、オーストラリア産牛肉などとの輸出競争で米国の農産品輸出が不利になるとの懸念もある。

TPPは本来、貿易面で中国を囲い込むことを米国が意図していて議論を始めた面もあったことも考え合わせれば、トランプ大統領はそうした意見にとりあえず耳を傾ける方が、11月の中間選挙を睨んで得策と判断したのではないか。

しかし、各国の利害を調整してようやく成立したガラス細工のようなTPPを再交渉することは、日本を含め参加国全体が「極めて困難」と考えている。実際にはTPP再交渉が難しいことを見越して、米国政府は「TPP復帰で多国間交渉を模索したが、日本などが見直しに反対したため、しかたなく2国間交渉を優先するスタンスに戻る」、などと農業関係者にも言い訳をすることができるだろう。

機能しなかった日米経済対話

日本政府は、トランプ大統領との初回の日米首脳会談の後に、麻生太郎副総理とペンス副大統領を軸に、「日米経済対話」で両国間の貿易・投資問題などを話し合う枠組みを、昨年スタートさせた。その狙いは、トランプ大統領を直接的な交渉相手とせずに、やや不慣れなペンス副大統領と交渉することで、日米自由貿易協定(日米FTA)等、米国側から強い要求が示されることを回避、あるいは時間稼ぎをする意図があったと推察される。

しかし「日米経済対話」では両国間の議論は深まらなかった一方、その枠組みを通じて、米国政府は引き続き日米FTA交渉を日本側に呼びかけ続けていた。

安倍首相は、今回の日米首脳会談で、「日米経済対話」に代わる新たな通商問題を協議する枠組みを、トランプ大統領に提案する見通しであるという。しかし「日米経済対話」での、既述のような日本側の意図を感じ取った米国側は、もはやそれに応じる可能性は小さいのではないか。

通商政策を巡る日米首脳会談は、とりあえず米国のTPP復帰の議論から始まるのだろうが、米国側は、日本側から再交渉を拒否されるとすぐさま、日本側にFTAなど2国間交渉を正式に要求する可能性も考えられる。その際には、日本から米国への自動車輸出の抑制、日本の米国自動車輸入の拡大、牛肉・農産物輸入の拡大などの米国側の要求を抑えることが難しくなる、との見方が一気に広がることになるのではないか(2018年3月29日、本コラム「米韓FTA再交渉から読み取る日米FTAの可能性」参照)。

為替報告書では日本を引き続き監視対象国に

ところで、米財務省が4月13日に発表した為替報告書では、日本を引き続き監視対象国に指定して、大きな貿易不均衡が日米間に存在すること、実質実効レートだけでなく名目レートでの「円安」も指摘するなど、日本の為替政策に厳しい姿勢が示された。

物価変動を除いた円の実質実効レートは、2017年から今年2月までに2.4%下落し、過去20年の平均値と比べて約25%も円安であると指摘された。さらに今回の報告書では名目円レートについても言及されており、「過去10年と比較すると、2013年上期から歴史的な平均値に比べて割安である」と見逃せない指摘がなされている。2013年上期はまさに、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を開始した時期にあたることから、米国政府が、日本の金融政策が円安誘導の目的で実施されている、との認識を持っている可能性や、またそのような批判をいずれは正式に、日本側に示す可能性も考えられる。

日米貿易交渉と円高リスク

今回の日米首脳会談で、貿易問題と為替政策を直接結び付けることはトランプ大統領もしないのではないか。しかし、将来必要となれば、日本に対して為替操作との批判をする、またそれによる市場での円高進行を背景に、日米間の貿易交渉を米国側に有利に進める意図はないとは言えないだろう。その結果として、この先、貿易問題で日米間の交渉が難航すれば、金融市場はそうした可能性を先取りする形で、円高がより進みやすくなるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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