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3月FOMCのMinutes-Slightly steeper

2018年04月12日

はじめに

今般公表された3月FOMCの議事要旨によれば、第1四半期の経済指標には若干の弱さがみられたにも拘らず、また、2月初からの株式市場の不安定化にも拘らず、FOMCメンバーが2019年にかけての景気や物価の先行きに総じて自信を深めたことに加え、そうしたシナリオに対する意見の収斂が進んだことがわかる。

景気の判断

FOMCメンバーによる景気判断(6ページ左段~右段)をみると、上記のように足許の経済指標に弱さがあることを認めた上で、遅延した税金の還付がこれから進むことに加え、①企業と家計の良好なセンチメント、②緩和的な金融環境、③海外経済の拡大、④減税と財政支出の拡大、といった理由によって、先行きに対して楽観的な見方を示している。

ただし、④に関しては、Powell議長がFOMC直後の記者会見で説明したように、タイミングや効果の大きさに関する不確実性も意識されている。FOMCメンバーは、その理由として、経済資源の稼働率が高い下で財政刺激が行われたケースが過去に乏しく、結果を比較できない点を挙げている。この点は、執行部説明でも、景気拡大の下での財政乗数の不確実性として、同様の指摘がみられる(5ページ右)。加えて、多くの(a number of)メンバーが、財政赤字の拡大に伴う財政のsustainabilityや実質金利に対する不確実性を指摘する一方、税制改革が潜在成長率を改善するとの見方は少数(a few)に止まったことも興味深い。

これに対し、いわゆる通商摩擦については、鉄鋼とアルミに対する追加関税自体が景気に大きな影響を与えることはないとしつつも、大多数(strong majority)のメンバーは、対象国による報復関税の拡大と米国自身の通商政策に関する不確実性を景気に対する下方リスクとしてみている。こうした記述やパウエル議長の記者会見での説明を踏まえると、少なくとも3月FOMC時点では、通商摩擦による影響はSEPに織り込まれていないものとみられる。

雇用と物価の判断

FOMCメンバーによる雇用と物価の判断(7ページ左段~右段)のうち、雇用の強さに関してはメンバーの間でコンセンサスがみられる。もっとも、労働参加率が長期の低下トレンドに拘らず今後も安定を続けるとの見方には、懐疑的な見方が多数となる形で意見が分かれている。失業率の顕著な低下も、現在は高学歴就労者のシェアが相対的に高いとして、過去のケースと単純に比較することに懐疑的な見方も示されている。

賃金については、地区連銀からの参加者が非熟練労働の不足に伴う賃金上昇を指摘したが、少数(a few)のメンバーは、労働力不足もskillのミスマッチや柔軟な雇用契約による面もあり、必ずしも賃金上昇に直結しないとの見方を示した。マクロ的にも、数名(several)のメンバーが相応の賃金上昇を指摘したが、多数(most)のメンバーは賃金上昇が緩やかである点を確認した。

なお、地区連銀からの参加者は、素材価格を中心とする賃金以外のコスト上昇圧力を指摘するとともに、製品価格に転嫁する動きにも言及した。さらに、少数(a few)の参加者が賃金上昇よりもこうしたコスト上昇の方が透明性が高いだけに価格に転嫁しやすいと指摘した。一方、他の少数(a few)のメンバーは、経済のグローバル化やIT化の進展の下で価格決定力の行使は難しいほか、企業にはコスト削減の余地もなお残るとして、素材価格の上昇がインフレ圧力に繋がるとの見方に疑問を示した。

金融政策の判断

政策判断に関する議論(7ページ右段下部~)については、景気拡大がこの間にモメンタムを高めるとともに、今後にインフレ率が加速するとの判断に全メンバー(all participants)が同意したことが注目される。また、インフレ率の加速については、2017年春の一時的要因が剥落することによる影響も指摘されている。

その上で多くの(a number of)メンバーは、低インフレの下で米国経済が潜在成長率を上回るペースでの拡大を続けることのコストとベネフィットを議論した。つまり、労働市場のタイト化に伴って、インフレ率の2%目標への回帰と労働参加率の上昇がともに生ずるとの楽観的な見方とともに、高インフレや金融の不安定化を招くとの慎重な見方の双方が指摘された。

こうした議論の上で、3月FOMCは全員一致で利上げを決定した訳であるが、より興味深いのは今後の利上げに関する考え方であろう。つまり、ほとんど全員(almost all)のメンバーが緩やかな利上げの継続が適当との判断を示した上で、数名(several)のメンバーは、現在の利上げペースによって、タイトな労働市場とインフレ率の2%目標への持続的回帰を維持しつつ、将来に急激な利上げを余儀なくされるリスクも少ないと指摘した。

これに対し多くの(a number of)メンバーは、景気見通しの引き上げとインフレ率の2%目標への収斂に関する自信の強まりを考慮すると、今後の適切な利上げペースについては、従来想定されていたものよりも若干早く(slightly steeper)なる可能性が高いとの見方を示した。

加えて、数名(several)のメンバーは、将来のある時点で実際の政策金利がFOMCメンバーの推計する「長期」の政策金利を上回る可能性が高い点に言及した。このため、将来のある時点では、金融政策は、デュアルマンデートの達成を目指す上でメンバーによる政策金利の予想パスと整合的な形で、もはや緩和的ではなく、中立的ないし引き締めに転ずることになる点を指摘した。

この点自体は、FOMC直後に公表されたSEPやdot chartから既に明らかである。つまり、FOMCとしては「長期」の政策金利が2.9%(median)であるとの推計を示した一方、2018~2020年末の政策金利に関する予想(同)を2.1%→2.9%→3.4%としているからである。もっとも、この点に関する記述は今回の議事概要の方が慎重であり、実際、デュアルマンデートの中期的な達成に向けてどの程度の引き締めが必要となりうるかについては、FOMCメンバーが様々な意見を述べたことだけが記載されている。

短期金利の上昇

FOMCメンバーの議論では触れられなかったが、執行部説明(1ページ右段、4ページ右段)では、TB発行額の急増に伴う短期金利の顕著な上昇が取り挙げられている。その結果、TBレートがOISレートを上回ったほか、FFレートなどの短期金利に波及したようだ。今回のTB発行の増加は一時的な要因によるとみられるが、いずれにせよ財政要因による市場金利の大きな変動は、今後のFRBの政策運営にとって厄介な問題である。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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