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米国個人決済サービスを巡る銀行・テクノロジー企業間の競合と協調

2018年04月11日

個人間送金サービス、Venmoの拡大

米国では、スマホを利用した商品購入支払いや、個人間(P2P)の送金が急拡大している。その代表的なサービスが、ペイパル傘下の決済アプリ「Venmo(ベンモ)」だ。相手のVenmoアカウントに対して、クレジットカードやデビットカード払い、銀行送金などを通じてお金を払うことができる。このサービスが人気を集めている理由の一つは、銀行送金やデビットカードの手数料を無料としていることである。他方でVenmoは、決済手段として受け入れた商店から手数料を徴収することで収益を上げている。それを利用して、利用者の決済手数料を無料化できているとみられる。

またVenmoの強みはSNSでもあるところで、ユーザーには送金先とその理由を共有できるオプションが与えられている。商店で何を幾らで購入したかや、割り勘の情報などが共有される。さらに米国では、「Venmo me!(ベンモでお金を送って)」などと、日常会話の中でVenmoが動詞として使われるようになっており、その広がりの大きさを物語っている。

銀行側も独自の個人間送金決済サービスZelleをスタート

他方で、守勢に立たされた銀行側も、個人間決済サービスの向上を図っている。昨年には、全米で30を超える銀行、信用組合が、個人間の送金決済サービス、Zelle(ゼル)をスタートさせた。個人間送金市場でハイテク企業に押され気味だった銀行勢は、この共同サービスで巻き返しを図ったのである。

Zelleによる決算額は2017年に750億ドルに達し、Venmoによる決済額の350億ドルを大きく上回ったという。銀行はこのサービスを銀行口座に付属するサービスの1つとして、その手数料を無料としている。

大手テクノロジー企業と銀行の協調も

しかし、決済サービスを巡っては、大手テクノロジー企業と銀行は対立の構図ばかりではない。ペイパルのサービスは、一般的な銀行が提供するものに近づいている。ペイパルは、電子ウォレット利用者に対して、基本的な銀行サービス機能の追加を持ちかけているという。これは口座が預金保険による保護の対象となったり、現金自動預払機(ATM)で現金を引き出せるデビットカードが発行されたり、小切手による直接入金が可能になったりすることだ。ただしペイパルは、米国の銀行免許を取得しておらず、今後もその考えはないという。

そこでペイパルは、幾つかの銀行に提携を求めている。ペイパルは、従来型の銀行口座を持たない人でもデジタル経済にアクセスできるようにすることが目的だ、としている。

協調は金融包摂の観点から社会的メリット

同様な試みは、アマゾン・ドット・コムも計画している。米銀大手JPモルガン・チェースなどと組み、ネット決済専用の預金口座に似た新たなサービスの導入を検討しているという。対象とするのは、銀行口座を持っていない若年層である。その背後には、銀行などに支払う手数料を減らすため、自前の「口座サービス」を持ちたいということもあるようだ。

米大手銀側は、インターネット、スマホの利用を好む「ミレニアル世代」と呼ぶ若年層の取り込みを図り、スマートフォンのアプリの充実など、新たなサービス導入を進めてきた。アマゾンと組むことで、銀行も若年層向けビジネス拡大の足がかりにする狙いもあるのだろう。

このように米国個人向け決済サービスを巡る銀行とテクノロジー企業との関係は、競合と協調とが混在しているのが現状である。しかしそれは、全体として利用者の利便性向上に寄与していよう。さらに以上のような動きは、銀行口座を持たない米国民が、より利便性の高い金融サービスにアクセスできるという金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)という観点から、社会的メリットがあると言えるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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