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既存の仮想通貨の欠点を補う新通貨サーガ

2018年04月10日

未だ一巡感が見られない仮想通貨の調整

年初来、仮想通貨市場を揺るがしていたコインチェック事件は、4月6日のマネックスグループによる仮想通貨交換業者コインチェックの完全子会社化によって、とりあえずの収束を見た感がある。しかしこの事件も影響したと見られる、昨年末以来の仮想通貨の価格調整には、未だ明確な一巡感は見られていない。ビットコインも、年初来の安値水準での推移を続けている。また仮想通貨の取引量は全体としてかなり低下した模様であり、更なる規制強化への警戒心と共に、短期間での価格の大幅な下落が、投資対象としての仮想通貨のリスクを改めて認識させるものとなっている。そして、ボラティリティ(価格変動)の大きさは、交換手段としての仮想通貨の使い勝手を一段と悪化させている。

新仮想通貨「サーガ(Saga)」発行

このように、ボラティリティの大きさと先行きの規制強化への懸念が、仮想通貨市場にとって大きな逆風となっているが、その双方に対応する新たな仮想通貨を発行する構想が進められている。それは、3月23日にフィナンシャル・タイムズ紙が報じた、新仮想通貨「サーガ(Saga)」である(注1)。

発行するのはスイスのサーガ財団であり、その諮問委員会にはJPモルガン・チェース・インターナショナル会長で元イスラエル銀行(中央銀行)総裁のジェイコブ・フレンケル氏、ノーベル経済学賞受賞者のマイロン・ショールズ氏、VIX指数(株式相場の変動性指数)の考案者の一人であるダン・ガライ氏が加わっている。いわば著名識者らによって強い権威付けが図られている。実際の発行は、2019年1-3月期だという。

ボラティリティ低下を目指す

サーガの供給量は、市場の需要によって調整されていくという。またサーガは、法定通貨のバスケットで市中銀行に預け入れる準備金を裏付けとする。その準備金の通貨構成は、米ドルの比重が大きいIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)と同一となる(1SDR=0.58252米ドル+0.38671ユーロ+11.900日本円+0.085946イギリスポンド+1.0174人民元)。サーガの保有者は現金との交換で返金を求めることができるという。詳細な設計は明らかにされていないが、仮にサーガの保有者は常に一定レート(例えば1サーガ=1SDR)でSDRとの交換が保証されるのであれば、SDR対比で価格変動はなくなる。こうした仕組みが目指すところは、仮想通貨の決済手段としての利用を阻んでいる、ボラティリティを低下させることにある。

規制当局にも受け入れられやすい通貨に

さらにサーガでは、規制当局が金融犯罪に利用される危険を問題視している仮想通貨の匿名性も排除し、規制当局に受け入れられすいものとなる。サーガの保有にはマネーロンダリング(資金洗浄)関連のチェックを要件とし、必要に応じて当局が身元を確認できるようにする。2017年4月の資金決済法改正により、日本では取引所での本人確認は義務付けられているが、世界的にはその対応は遅れている。

確かに新仮想通貨サーガの発行は、今までの仮想通貨の2つの大きな弱点に対応する一方、分散型台帳技術に基づく低コストなど利用者の利便性向上といった革新性は維持する、新たな試みだ。国際的な資金決済に、利用が広がる潜在性はあるだろう。

事実上の兌換通貨か

ただし、ボラティリティが低下することで、投資対象としての魅力は低下することになる。純粋に決済手段としての取引に限られれば、その取引量は、現在の仮想通貨に比べてかなり小さいものとなろう。

また、サーガは、既存の仮想通貨とは大きく性格を異にしている。まず既存の仮想通貨は、誰の負債でもない一方、伝統的な銀行決済に対してより安価で利便性の高いサービスを提供できるという点に価値を持つと考えられる。これに対してサーガは、発行主体であるサーガ財団がいつでも準備しているSDRと交換することを保証するという意味で、サーガ財団の債務と言える。

これは中央銀行が金などとの交換を保証する、兌換通貨のようなものである。事実上はSDRを用いた決済と同じだとすれば、これを仮想通貨と呼ぶのが妥当かどうかという疑問もある。

仮想通貨の理念を否定している面も

それ以上に重要なのは、ビットコインの発想にあった、中央銀行のような中央管理者を必要とせずに、広く決済手段として利用されるという、脱国家、脱中央銀行、脱銀行的な思想、理念とは異なる。それは、サーガ財団によって通貨の発行などが管理される仮想通貨であるためだ。

既存の仮想通貨の欠点を補う新たな仮想通貨が、既存の仮想通貨を支える思想、理念を否定するところから生じているということは、従来の仮想通貨のいわば限界を露呈しているという面もあるだろう。


(注1)"Economists’ cryptocurrency aims to avoid pitfalls of bitcoin", Financial Times, March 23, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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