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FRBのパウエル議長の記者会見-Consistency

2018年03月22日

はじめに

今回(3月)のFOMCは、市場の予想通りに政策金利の25bpの引上げを決めたほか、いわゆるdot chartが示唆する2018年中の利上げ回数も3回に据え置いた。もっとも、経済見通し(SEP)や2019年以降の利上げ回数の面では、相応に強気な内容が含まれていたこともあって、米国市場の反応は短時間に変化した。

経済見通し

今回の声明文では、第1四半期に家計支出と設備投資の双方がやや減速した点を率直に認めている。その上で経済見通しはむしろ好転したとして、こうした減速が一時的との見方を示している。

実際、今回のSEPは前回(12月)に比べて上方修正されている。まず、実質GDP成長率の見通しは2018~20年にかけて、+2.7%→+2.4%→+2.0%と、前回に比べて、2018年と2019年が各々+0.2%ポイントと+0.3%ポイント引上げられた。失業率も、同様に3.8%→3.6%→3.6%と、前回に比べて0.1%ポイント、0.3%ポイント、および0.4%ポイントとやや大きめに引き下げられた。

FOMCが景気に関してやや強気な見方に転じたことは、先日のパウエル議長による議会証言から想像できたほか、前回(12月)の際に不透明であった税制改革の内容がこの間に決定したため、FOMCメンバーが効果を経済見通しに具体的に織り込んだことにも留意する必要があろう。それでも、今回据え置いた「長期」の実質GDP成長率(1.8%)をかなり上回るペースでの経済成長が続くとの見通し自体は、意味のあるメッセージである。

金融政策の運営

今回のdot chartによれば、FOMCメンバーによる政策金利の平均的な予想は、2018年末は2.1%と前回(12月)と不変であり、つまり本年中の利上げは25bp×3回とされた。しかし、2019年末は前回(12月)の2.7%が今回は2.9%となり、2020年末も前回(12月)の3.1%から3.4%に引き上げられた。これらは、2019~20年にかけて、25bpの利上げが各々3回および2回行われると予想していることを意味する。

このように、FOMCは利上げペースを前回対比で顕著に引き上げた訳ではなく、声明文が述べるように緩やかなペースであることには変わりがない。また、今回若干引き上げた「長期」の政策金利(2.9%)に来年末には到達するとの予想自体にも変化はない。さらに言えば、2020年末の政策金利予想が3.4%と「長期」の政策金利に比べてタイトだとしても、パウエル議長が今回の会見で説明したように、先の話だけに相当な不透明性を内包している。

この間、SEPによるPCEコアインフレ率の予想は、今回、2018~20年にかけて+1.9%→+2.1%→+2.1%となった。前回(12月)と比べると、2019~20年が各々0.1%ポイント引き上げられたに過ぎない。しかし、実質GDP成長率や失業率の見通しと合わせてみれば、2018年末~2019年の前半にインフレ目標を達成した後、減速しつつも潜在成長率を上回るペースでの景気拡大が続く下で、FOMCとしては、利上げの継続によってインフレ率のオーバーシュートを抑える状況が出現することを意味する。

この点に関してパウエル議長は、記者会見の中で、2020年にかけて失業率が極めて低位で推移するとの予想にも拘らず、インフレ率見通しを殆ど変えていない理由について、Philips Curveが依然としてflatとみられることを指摘した。また、「長期」失業率の下方修正をわずかなものに止めた(4.6%→4.5%)点についても、様々な要素を反映して長期的に変化する性質のものであるためと説明した。つまり、政策判断の前提となる経済情勢の理解については大きな変化がないことを確認した。

それでも、SEPに示された見通しは、インフレ率にしても失業率にしても、FOMCメンバーによって合理的に予想されている限り、こうした利上げ-2019年末頃からは「正常化」ではなく「引き締め」となりうる-の影響を織り込んだものであることに注意する必要がある。つまり、そうした影響も考慮した上での今回の利上げ予想は、FOMCが、従来のように低インフレの「謎」に悩むよりも、次第にインフレ自体のリスクに目を向け始めたことを示唆する面があると思われる。

政府とのポリシーミックス

興味深いことに、今回の記者会見で最も多く取り上げられた論点は、上記のようなSEPと政策判断の関係ではなく、トランプ政権による通商政策の影響であった。多くの記者が指摘したように、欧州や中国による報復関税が発動されれば、米国企業に対する打撃も大きく、輸出だけでなく設備投資、企業収益と株価に対する影響が懸念される。しかも、輸入関税が拡大すれば、需要の増加を伴わないインフレ圧力も生じうる。

しかし、パウエル議長は、今回のFOMCで一部のメンバーがこの問題を取り上げたことを認めつつ、こうしたリスクは今回のSEPに織り込まれていないと説明した。その理由として、新たなリスクであって不透明性が大きい点を指摘し、現時点では見通しに反映し難い点を示唆した。もっとも、パウエル議長が付言した通り、米国の企業経営者の間ではより現実的な問題として捉えられているものとみられるため、パウエル議長のコメントは、実業界や金融市場との認識のギャップを浮き彫りにした面がある。

同様に今回の記者会見では、多くの記者が税制改革の効果と副作用を取り上げた。前者に関しては、一部の記者が、FOMCメンバーはトランプ政権が主張する実質3%の経済成長が実現しないと判断したのかという政治的な問いを投げかけた。パウエル議長はFOMCメンバーは多様な意見を有するほか、経済予測には不確実性がつきものであり、medianだけでなくレンジもみるべきといった回答で切り抜けたが、税制改革の経済成長に対する効果の推計自体は市場からみても違和感はないように思う。

パウエル議長にとってより難しい質問は、財政状況の悪化が、FRBのバランスシート調整に及ぼす影響を質すものであったと思われる。パウエル議長は、正面から回答することを避け、バランスシート調整は慎重な検討の結果として設計されているので、何らかの問題が生じても政策金利の方で調整するとの原則論を説明した。しかし、財政ファイナンスへの懸念による長期金利上昇が顕現化した場合、そうした対応で十分かどうかは全く不透明である。

デビュー戦

今回は、パウエル議長にとって初回の定例記者会見だったが、冒頭説明がかなり早口になったり、前半の質疑がごく短い回答に終始するといった点では、さすがに緊張感も窺われた。議会証言の際には、市場からはパウエル議長が淡白でつまらないという評価もあったが、それはやや早計だったようだ。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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